
離婚事件における主要争点の一つが財産分与です。
財産分与とは、夫婦が協力して形成した財産を共有財産とみなして、それを応分の割合(原則は2分の1)で分けるということですが、実際の事件では、夫婦の具体的な事情、経緯が千差万別なので、その範囲、評価から具体的算定方法に至るまでで様々な争点が出てきますし、事案の集積はあるものの、個々の事件における裁判所の判断もまたいろいろあって、中には納得できないと感じるものもあったりとか、とにかく非常に悩みの尽きない領域ではあります。
というわけで、財産分与について、当事務所の弁護士が経験した事例も含め、参考になりそうなものをいくつか取り上げてみます。
まず、分与の割合については原則2分の1とされていますが、この割合の点が争われることもありますし、特にかなり年収が多い配偶者がそのような主張を行うことはわりと見られます。
もちろん、結婚前からの努力で高収入を得ている人からすると、そのような気持ちになることも分からなくはないし、調べてみるとそのような判例もあることはあるのですが、裁判所がその点を重視して分与割合を変えてくることはあまりないようです。
まあ、個別の事情を言い出したら切りがないと思っているのかもしれません。
もっとも、当事務所で扱ったある和解事案では、分与割合が調整されています。
それは、夫の方が元々かなりの高収入を得ていたうえに、さらに手間のかかる副業に携わっていて、そちらでもかなりの高収入を得ていたという事例で、正業のみで十分に暮らせる状況で、副業を頑張って高収入を得ていたのは夫の才覚や努力によるものといえるということで、裁判所が妻の側を説得してくれての和解となりました。
ケースバイケースではありますが、認められるべき事案はそれなりにあるのではないかと思います。
ところで、実務において分与の対象とすべき共有財産について全体を把握することは、言うは易しで実際には結構大変です。
特に、片方の配偶者のみがほとんどの財産を管理している場合は、他方の配偶者は夫婦の財産状況をほとんど把握できておらず、そのような状況で相談に来られるということは決して少なくありません。
そのような相談を受けた場合には、まず自宅内で相手方名義の資産状況を把握する手掛かりになりそうな資料があれば、それを入手するように助言してあげるようにしています。
もし、離婚を考えているけれど、夫婦の財産状況が正確に把握できていないというのであれば、郵便物のチェックも含め、家の中で目に入るような資産に関する資料をある程度確認してから弁護士事務所に行くようにした方がよいでしょう。
これまでに扱った事案でも、そのような助言をしておいてあげて相談者が家の中で見つけた資料を写真に撮っておいて、調停手続に臨んだところ、夫からはそのあたりの資産についてはまったく開示されなかったので、席上で指摘して開示を求めたのですが、そうしたら分与対象財産が2000万円以上も増えたということもありました。
また、実際に調停などの手続が始まった後でも、いろいろと調べてやりとりを重ねて行くことで、表に出ていなかった別の財産があることが明らかになることもありますし、そこから裁判所における文書送付嘱託の手続を利用するという方法もあります。
ごく最近扱った事件でも、まったく自分名義の財産はないと主張していた側の取引履歴を詳細にチェックしてみたところ、別の銀行口座があり、そこに数百万円もの預貯金があることが明らかとなって、依頼者に有利な解決が図れたということがありました。
弁護士のスタンスとしても、依頼者から事情、経緯や日常の金銭管理や支出の状況などを細かく聞き取ったり、入手した通帳などの取引履歴を子細に検討することは、手間はかかりますが、別資産が見つかるにせよ、見つからないにせよ、納得のゆく結論を導くためには必要な作業といえます(ちょっと表現はよくないかもしれませんが、ある程度成功体験があると、どこか、宝探しあるいはパズルを解くような気分になることもあります)。
ところで、財産分与に限らず、離婚関係がらみの案件における裁判所の決めごとや進め方は、ある程度ルーティン化されており、またそこには一定の合理性があるといえるのですが、逆に、マニュアル的なものに従い過ぎて、事案ごとの対応の柔軟性がなく、判断が人間味に欠けると感じることも少なくありません。
最近も、ある事件で経験したのですが、夫がまったく働かず、妻がフルに働いて家計を支えていたという経緯がある中で、夫から財産分与を求められた事例で(昭和の時代なら、ヒモだとか髪結いの亭主とか言われて蔑まれるわけですが、時代はどんどんと変わって行きます・・・)、裁判所が、妻が貯えていた預貯金全体のうちの2分の1を夫に分与すべきと判断したということがありました。
一見すると、ただちに誤った判断とは見えないかもしれませんが、その事件の場合、妻の側が貯えていた預貯金は、2人のお子さんが数年以内に大学に進学する予定なので、そこでかかることが確実な学費の支出に備えるためのものという事情がありました。
実際、私立高校や大学への進学となりますと、一時期に多額の入学金、授業料、受験費用、予備校費用がかかりますし、2人となるとトータルで数百万円では収まらず、優に1000万円は超えることが確実なところでしょう。
当然ながら、そのような多額の支出をいざ金がかかる時期の収入だけで補うことは到底不可能なので、あらかじめそれに備えておくのは親としての責務でもあります。
主張するにあたって調べた判例の中には将来の学費への備え分を分与の対象にしないとしたものもあったので、そのような判例も引用して主張を行ったのですが、裁判所は、相手方に資産全体の2分の1を分与するようにとの形式的な判断を下しました。
この仕事に長く関わっていると、明らかに常識に欠けていたり、洞察力、想像力がなく、人間味に欠けていると感じるような裁判官が少なからずいることは承知していますし、そのような裁判官と対峙することが仕事上のストレスのかなりの割合を占めているわけですが、この事件の時も心底そう感じました。
とまあ、いいことばかりでもありませんが、とにかく離婚関連事件は、検討すべきことが事例ごとで千差万別で山のようにありますので、まずは早めに弁護士の助言を仰いでおくことをお勧めします。
そこで得た助言が時に有用なものとなって、相談者の次の人生、さらにはお子さんの人生をも大きく左右することは決して稀なことではないからです。
また、離婚事件に限りませんが、弁護士への相談や依頼は、得手不得手もありますし、どこまで親身になってもらえるかとか、さらには相性といったこともありますので、複数の弁護士に相談してみることもお考えいただいた方がよいと思います。