事務所トピックス

事件日記~遺留分のお話Part1~遺留分と主張の期間制限

葵法律事務所

遺言が存在する相続案件で出てくる権利が「遺留分」です。
民法1042条以下で定められていますが、2019年7月1日を境に制度改正がなされていてその前後で扱いが異なる点もあるので注意が必要です。
その内容については各所で取り上げますが、実際には遺留分はいろんな局面で登場してきます。
当事務所の弁護士が扱った事件や関連判例などに言及しつつ、幾度かに分けて取り上げてみたいと思います。

まず、遺留分とは何かですが、遺言があっても留保される権利(取得分)ということになります。
大まかにいえば、遺留分は法定相続分の2分の1とされています。
つまり、たとえば、配偶者と子が相続人である場合、法定相続分は配偶者が2分の1、子が2分の1(複数いれば按分されます)となりますが、遺留分はその2分の1となり、配偶者、も子も4分の1となるわけです。
ただ、兄弟姉妹には遺留分は認められていません。
子も親もいない場合、兄弟姉妹にも法定相続分が認められているのですが、被相続人が遺言を遺していれば、兄弟姉妹に遺留分がないので、遺言の内容に異を唱えて権利主張することはできないというわけです。

被相続人の死後に遺言が出てきたときには、遺留分権利者は遺留分を主張することができますが、法律上の用語で、それを遺留分侵害額請求権(旧法では「遺留分減殺請求権」と呼ばれていました)といいます(現時点では改正前の旧法の適用場面の事件も多いので、以下の記事では時期に応じて使い分けさせていただきます)。
ただ、この遺留分侵害額請求権の行使についても一定のルールがあります。
何より重要なことは権利行使に期間制限があるということです。
法定相続と異なり、被相続人の意思で遺言が作成されている以上、原則的にはそれが尊重されるべきであり、不利な内容の遺言だと知った遺留分権利者がいつまでも権利行使をしない場合にいつまでも権利行使が可能とすることは法的な権利関係を不安定にしてしまうからです。
遺留分侵害額請求権行使の期間は、自身の遺留分を侵害している内容の遺言の存在を知ってから1年以内です。
新法の条文上の表現では「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間」となっています(民法1048条。同条文では、もう一つ、相続開始から10年で消滅するという規定も設けられていますが、これは不利な遺言の存在をずっと知らないままであった場合の定めです)。
現実には、遺言は被相続人の自宅内にあるか、相続人の一人、あるいは第三者(弁護士、税理士、銀行など)が保管していることが多く、通常は被相続人の死後にそれが開示されるか、自筆証書遺言の場合だと、家庭裁判所で「検認」という手続が取られなくてはなりませんので、そうしたタイミングで他の法定相続人も遺言の存在を知ることになります。
いずれにしても、遺留分侵害額請求権は自身に不利な遺言の存在を知ったその日から1年以内に行使しなければ以後はまったく主張することができなくなるわけです。

注意すべきは、遺言の効力を争うような場合であっても、遺留分侵害額請求権を期間内に行使することを絶対に怠ってはならないということです。
現実には、必ずしも被相続人の真意とは考えにくいような偏った内容の遺言が死後になって突如として出てきたり、遺言の作成時期がすでに判断能力の衰えつつある段階のものであったり、あるいは被相続人を一部の家族が抱え込んで他の家族を遠ざけてしまっていたりとか、遺言を巡っては様々な事情や経緯があったりします。
それゆえ、中には遺言の効力そのものを争いたくなるような事案も少なからず存在するわけですが、そこで遺言の効力の方にばかりに気を取られていると、遺留分侵害額請求権の行使のことは失念してしまいがちなものです。
しかし、現実には遺言の効力を争うといってもそのハードルはかなり高いので、有効とされた場合に備えて遺留分侵害額請求権の主張を時効期間内に行っておくことは必須となります。
この点、弁護士にとって首筋が寒くなるような判例もあります。
それは、遺言無効の訴えの事件を受任した弁護士が、遺留分侵害額請求権の行使につき助言を怠ったため、それが弁護士の善管注意義務違反にあたるとして依頼者からの損害賠償請求が認められたというものです。

ともあれ、遺留分侵害額請求権は時効期間経過前に行使さえしておけば、そこからは腰を据えて検討することができますので、内容証明郵便という証拠の残る形で意思表示を行っておくことが肝要です。

次回は、遺留分放棄の許可について取り上げます。

2024年07月22日 > トピックス, 事件日記

事件日記~高齢者を狙った詐欺被害を防ぎ、高齢者を守るためになすべきこと

葵法律事務所

高齢者を狙った詐欺事件は、いつの時代でも変わらず起きているものですが、ここのところでさらに日常化し、より悪質化しているように感じます。
弁護士として実際にそうした事件を扱っていると、「やったもん勝ち」のような風潮になっている今の時代の空気がそうした傾向を助長していて、勤労世代の善悪の判断基準が狂ってしまっているのではないかと思わざるを得ません。
判断能力の衰えつつある高齢者を狙った卑劣な詐欺被害をどうやったら防げるのかといったことをいろいろ考えていたところもあるので、ここで取り上げてみたいと思います。

まず、最近引き受けた高齢者を狙った詐欺事件のお話からしますが、その事件には2つほど大きな特徴がありました。
事件自体は、最初に自宅を訪問して心を許したところで、およそ二束三文の不動産を言葉巧みに売りつけるというもので、それ自体は以前からある手口で、屋根の雨漏りとか、シロアリ駆除などの名目のものと同様、独居の老人を狙う典型的な手口といえます(わりと良い身なりをして親切な振りをして入り込んでくるあたりは今も昔も同様ですし、警戒シグナルです)。
ただ、受任した事件の場合、複数の不動産業者が立て続けに訪れて同種の詐欺を働いているという特徴があり、この点がちょっと気になりました(いずれも更新番号が⑴なので、これも警戒シグナルです)。
そこで、登記簿謄本を取ったりニュース報道なども調べてみたのですが、これまでのところ、立て続けに訪れた2社の業者に繋がりがあるという明白な証拠には辿り着けていません。
ただ、そのうちの一社であるB社の関連事件の情報が入手できたので調べてみたところ、その業者は、別の不動産業者であるC社とつながっているらしいことが判明しました。
ところがこのC社の人間はすでに高齢者を狙った詐欺で逮捕されており、報道によると、9万人もの高齢者の名簿を入手し、それを悪用しているとのことでした。
得ている情報からすると、いずれも独居の80歳代の高齢者をターゲットにした詐欺事件のようですので、この9万人の名簿がもしかすると独居老人に関するデータでそれを共有しているのかもしれません。
ただ、いずれにしても、複数の詐欺目的の連中が独居老人に的を絞って住宅地を徘徊していることだけは間違いないといえるでしょう。

もう一つの特徴は、ここまでに得た情報では、騙された被害者は、いずれも高齢ではあるものの、いわゆる新長谷川式などの検査では30点満点中20数点程度取れるくらいで日常的な受け答えは一応できるレベルであり、それだけで見るとただちに詐欺にあたるとまではいえないかもしれないという共通点がありました。
では、なぜ二束三文の不動産の購入契約を締結したのか尋ねてみると、これも共通していて、本人にはそもそも不動産購入の認識がなく、銀行の窓口での送金についても売買代金の支払いではなく、貸してあげたくらいの認識だったりするのです(このあたりは騙しのテクニックの巧妙さということでしょうし、マニュアル化されているのかもしれません)。
ただ、確認した事例の対象物件は、いずれもまともな判断能力があれば絶対に買わないレベルのおよそ価値のない不動産であり(調査してみると時価の十倍から数十倍で売りつけられていました)、実体としては間違いなく詐欺なのですが、この種の詐欺事件の摘発に必ずしも積極的とはいえない最近の警察の対応からすると、刑事事件として立件するうえでのハードルは低くないのかもしれません。

では、私たちは、高齢者を狙って詐欺目的で徘徊する連中から、独居の高齢者を守るために何をするべきなのでしょうか。
率直に申し上げて、すべての犯罪を完全に防ぐことは難しいかもしれませんが、なんとしても高齢者の方が老後のため、あるいは子や孫のためにと貯えてきた虎の子の財産を守るために最も効果的な手段を取らなくてはなりません。
そのためになし得ることとして現状の最善の方法は、裁判所で後見人もしくは保佐人を選任してもらって、預貯金を適切に管理できるようにすることだと思います。
詐欺業者にとっては、契約をさせるだけでは目的を達せられないので、この種の詐欺の場合、銀行から送金させるところまでやらなくてはなりません(もちろん、その水際で止めるという方法もありますが、現実にはすり抜けられてしまうことも多いわけです)。
となると、そもそも多額の預貯金の管理を本人ではなく後見人か保佐人が行うことにすれば、それによって預貯金からの送金自体ができなくなるわけです。
また、後見人が就いていればそもそも詐欺業者と本人との契約自体が無効となりますし、保佐人も契約の取消権を持ちますので、事後的な対応も含めれば、この手続を実践してあげるのがベストといえます。
ただ、今回の事件でも思うのですが、テストで認知症ではないと判断されてしまうような方の場合、果たして後見人、保佐人を選任してもらえるのかという問題があります。
しかし、不動産売買のような財産を根こそぎ奪われかねないような取引の判断ができない人にこそ法的な庇護が与えられるべきなのであり、要後見、要保佐状態にあるかという選任要件は、むしろそうした観点からなされなくてはならないと思いますし、被害を予防するためにも積極的かつ柔軟に選任がなされるべきといえます。
現在の、高齢者を狙った詐欺が横行、蔓延している世の中の実態を踏まえ、裁判所が選任要件を柔軟に解釈して行かなければならないと思います。

なお、仮に裁判所の手続に委ねるのではなく、早急に保護的な対応をしたいということであれば、任意後見契約を利用し、あわせて財産管理契約を締結するという選択肢が考えられます。
この財産管理契約を締結して、多額の預貯金の入った通帳を信頼のおける人物に預かっておいてもらえば、少なくとも預貯金をだまし取られることは未然に防げますので、当面の対応としては非常に効果的といえます。

あからさまで悪質な詐欺が横行する、本当に嫌な時代になっていますが、我が身、あるいは大切な親族の老後の資金を守るために知恵を絞り、先手を打っていただくことが肝要と思います。

2024年07月21日 > トピックス, 事件日記

事件日記~最近当事務所において解決した、ある交通事故案件についてのご報告

葵法律事務所

弁護士は、事案に応じ、局面に応じ、様々な選択をしなくてはなりませんが、その中で大変なのは、新しい法律知識や判例の検討はもちろん、実務の動向にも気を付けなくてはならず、実は、それが落とし穴になることがあるということです。
最近扱った、ある交通事故の件がその好例といえますので、今回はその事件を取り上げてみます。

事件は、高齢の女性が横断歩道上を渡っていたところ、広い交差点であったため、青信号で渡り切れず、赤信号になってしまい、前を見ないで突っ込んできたバイクに撥ねられ、高次脳機能障害になったというものですが、この事件の加害者の男性は自賠責保険にしか入っていませんでした。
自賠責で支払われる額は、通常、任意保険よりもかなり低額になることが多いのですが、この事件では、たまたま、依頼者の息子さんが別の総合保険に入っていて、家族が人身傷害の被害を受けた場合も一定の補償を受けられるようになっていましたので、症状固定後、自賠責の被害者請求を行い、さらに当該保険会社からの条件提示を受けるに至りました(実際にはそれまでも紆余曲折はあったのですが)。
提示された条件は、検討してみると、加害者が任意保険に入っていた場合に比べ、やはり低額なものでした。
そこで、当職らは加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起することとしたのです。
この点がポイントなのですが、この提訴の主目的は、資力の乏しい加害者から賠償を得るということではなく、人身傷害特約付きの保険契約を締結している損害保険会社から上乗せの保険金の支給を受けるというものでした。
実は、平成24年ころに保険実務が変更になったことで、被害者側が、加害者側に対して、訴訟を提起し、裁判所での和解もしくは判決で損害額が確定した時点で、上乗せの金額が支払われる場合があり、本件ではそれを利用してみる価値があるということで、訴訟を提起することとしたのです。
訴訟先行型と呼ぶのですが、つまりは、この制度を知らなければ、保険会社側が提示した金額をベースとした解決で終わってしまうことになるわけですから注意が必要なわけです。

訴訟になれば、事故態様からして、裁判所から早期の和解案提示がなされるのではないかと想定していましたが、実際には加害者側の代理人が、事故態様、過失割合等を正面から争ってきたことから、事故態様の立証などにエネルギーを割かなくてはなりませんでした。
確かに、加害者側としては、保険会社から将来求償を受ける可能性がある以上、損害額を減らしたいと考えるのは当然でもあり、このあたりはやむを得ないところでもありました。

ただ、この事件は、途中から様相を変えました。
加害者の代理人が、急に、破産申し立ての検討を始めたと伝えてきたのです。
そこで、保険会社側に確認するなどして検討したところ、破産が先行してしまうと、加害者側への求償が難しくなるため、当初の提示額にとどまってしまうという話が出てきたので、そこからは、一方で保険会社側から規約の提示を受けたりしながら、他方で、裁判所や加害者側との折衝を行うという両面対応を余儀なくされました。
結論的には、加害者側が破産申し立てをする前に、和解を行うのであれば、上乗せ額が支払われるという点を保険会社側に確認したうえで、裁判所に和解提案を求め、加害者側もそれを了承して、和解に漕ぎつけ、無事に解決に至りました。
保険会社の当初の提示額よりも1000数百万円程度の上乗せとなり、訴訟先行型の実を得られる解決となり、我々としても胸を撫で下ろしました。

交通事故に遭った時、加害者が任意保険に入っていないため、十分な賠償を受けられないというケースは、遺憾ではありますが、決して稀なことではありません。
そのことについて思うのは、事故のほとんどは過失によるものですが、任意保険に入らず、車を運転するというのは、「故意」であり、そのこと自体が厳しく罰せられるべきではないかということです。
なぜなら、大部分の運転者にとって、避け難いような状況で起きた事故であっても、ひとたび事故が起きれば、何らかの過失を問われることがあり得ますし(特に歩行者相手の事故についてはそういえます)、そうである以上、十分な賠償がされるための任意保険への加入は、「任意」ではなく、運転者の基本的な義務といえるからです。
ただ、実際は、任意保険に加入していない、さらには自賠責にすら入らず、ハンドルを握っている人が少なからず存在します。
そんな人がいったん事故を起こせば、被害者のみならず、加害者やその家族にとっても時に一生を左右しかねないほどの経済的な重荷を背負うことになるのです。
そうである以上、被害者側にとっても、別の損害保険に入って、人傷特約を結んでおくことは、いざという時の備えになりますし、本件であらためてそのことを痛感しましたし、弁護士としても、そのような事件に遭遇した場合には、保険の規約を精査し、それを最大限生かすような活動をしなくてはなりません。
なお、これも訴訟の中で知ったことですが、一言で訴訟先行型といっても、保険会社から受けられる保険金額は、会社によってその計算方法がかなり違っていますので、この点でも注意が必要です。
ともあれ、人生、いくつになっても日々勉強です。

2024年01月23日 > トピックス, 事件日記

事件日記~将来の相続への備えのお話

葵法律事務所

高齢化が進んでいる影響もあるのでしょうが、ここのところ、当事務所でも相続開始後の遺産分割だけでなく、遺言や将来の相続に関する相談や依頼が多くなっているように感じます。
遺言だけでなく、いつか必ずやって来る相続という事態に、前もって備えておくことは、せっかく蓄積してきた財産を次の世代のために残せば、大切な人たちの生活を安定させることに繋がりますし、親族間の無用の紛争を回避できることにもなります。
ところで、将来の相続への備えといっても、相続それ自体への備えと、将来納めることになる相続税への備えという問題があります。
というわけで、このあたりの考え方を整理しつつ、ポイントになりそうな点についてご説明してみたいと思います。

相続税対策とは、端的に言えば、将来の相続税の申告の際に納める相続税を少しでも減らして相続人等に少しでも多く残すための備えということになります。
今の政治が、国民から巻き上げた税金を一般国民のためにちゃんと使ってくれていないという現状も考えれば、国民としてはなおさら無駄な税金は払いたくないところでもありますが、なんにせよ、遅かれ早かれ必ずやってくる事態への備えをしっかりやっておくかどうかで、納める税金が大きく違ってくる場合があることは間違いありません。
一方、全体的な相続対策は、たとえば、自分が死んだ後に子供たち同士でいがみ合わないでほしいであるとか、逆に、自分の世話を一生懸命やってくれた人に多く残したいとか、あるいは、残された人の将来を心配して憂いなくしてあげたいとか、相続税を少なくするということ以外にも、様々な動機があり、あらかじめ何ができるかをより広い観点で検討しておくべきものです。
仮に相続税の基礎控除の範囲内に収まる遺産しかなく、相続税を納める必要がないとしても、いざ相続となれば、相続人間で揉めることはいくらでもあることですから、そうならないためにも、相続対策をやっておく意味はやはり大きいといえるわけです。

ただ、この相続税対策と相続対策は、一応区別できるものの、実際には関連し合っているところがあります。
相続税対策が相続対策になっているところもあれば、逆に相続税対策として行ったことが相続にいろいろと影響を及ぼすこともあります。
したがって、具体的に何が可能か、何をしておいたらいいかは、総合的に考えておく方がよいといえるわけです。
相続税に限りませんが、税の仕組みや運用は、しょっちゅう変更されたりしますし、かなりテクニカルなところもあり、本来は税理士さんの領域です。
一方、相続対策は、生前中の権利調整をしておいた方がいい場合や遺言の作成の必要も出てきたりとかで、トータルに考えておいた方がいいところもあるので、こちらについては弁護士の領域といえます。
まあ、経験が一定以上ある方であれば、弁護士でも税理士でもどまちらでもいいといえますが、それぞれの強み、弱みもあり、視点や発想の違いもあるので、弁護士と税理士がうまく連携できるのが一番望ましいように思います。
実際、当事務所でも、税金の問題が絡むような事案では信頼できる税理士に常に相談できるようにしています。

ところで、相続税対策が必要か否か、そして、具体的に何をすべきかは、当然ながらその方の財産状況によって選択肢が大きく異なってきます。
不動産が多ければ、そのままがいいか、あるいは不動産を処分、あるいは借金をしてアパートを建てたりする方がいいのか、また、それを誰の名義で建てるのがいいのかといったことを比較検討したりするのに対し、預貯金や有価証券類が多いような場合には、不動産と違い、そのままでの評価となりますので、住宅資金贈与や教育資金、さらには生命保険等に関する税法上の特例のうまく利用することを検討して行くことになります。
もちろん、元々遺産となるものが明らかに基礎控除の範囲内ということであれば(定額で3000万円、さらに相続人の人数×600万円)であれば、そもそもこうした対策は必要ないことになりますが、気をつけなくてはならないのは、特例を利用すれば相続税がかからないとか大きく減るというケースでは、申告そのものはしなくてはならないということです。

相続税対策となるようなものはいろいろあります。
たとえば、住宅資金贈与については、法定相続人の場合、一人1000万円までということで遺産を目減りさせる効果が大きいのですが、対象不動産や期間などの要件がありますので、注意が必要です。
生命保険の特例は一人500万円でこちらも節税効果としては大きいのですが、高齢になると、利用できる生命保険は限られて来ます。
ですので、この特例を利用するのであれば、できるだけ早く検討されておいた方がいいと思います。
もっとも、最近扱ったケースでは、外貨建てですが、90歳以上の方が加入できる生命保険があり、円安が進んでいる中では外貨建てのリスクが低くなるというメリットがあり、非常に有効な対策になりました。
ほかにも、条件が合う人であれば、教育資金贈与、さらには相続時精算課税制度といった節税対策もありますし、一般的に知られているところでは、「年110万円までの贈与に贈与税がかからないという特例」が「塵も積もれば山となる」で有効ですが、制度変更があり、恒例となってから始めるのでは効果が見込めない場合も出て来るようになりましたので、気をつける必要があります。
あと、年110万円の贈与については、贈与されたという実体がないと「名義預金」、つまりは遺産として扱われてしまうので、こちらも注意が必要です。
とまあ、いろいろとあるわけですが、こうした相続税対策は細かい条件や非常にテクニカルなところもありますので、専門家の助言を受けられるようお勧めします。

以上に挙げたような相続税対策ですが、相続本体への影響が当然あります。
あらかじめ、特定の相続人が遺産の前渡しを受けるということになるので、その分がいわゆる特別受益にあたると評価されることになるからです。
全員が平等にもらっていればいいですが、現実にはそういうケースの方がむしろ少なく、それが紛争のもとになることが往々にしてあるわけです。
そうした紛争をできるだけ避けるために、最も有効な手段は遺言を残しておくことです。
ただ、遺言も万能ではなく、いざ相続開始となれば、特別受益の問題は出てきます。
しかし、遺言の作成の際に、そうした経緯も踏まえて、条項中に、遺言者の想いを丁寧に綴っておくことで、相続人間の疑心暗鬼を解消することができて紛争回避につながることも期待できます。
ほかにも、たとえば、ずっと献身的に面倒を見てくれた相続人により多く残したいというような場合にどうするかなど、具体的な事案に応じて取れる選択肢はいろいろとありますが、やはり非常にテクニカルで創意工夫が必要なところがありますので、こちらについても、早め早めの対策をご検討されることをお勧めします。

2023年10月02日 > トピックス, 事件日記

事件日記~遺産分割調停手続における最近の傾向

葵法律事務所

裁判所における手続というのは、法律の基本書とは結構違うところがあります。
なので、習うより慣れろで、実務の場数を踏むことも大切だったりするわけです。
もちろん、裁判官によるやり方の違いといったこともあって、裁判官が転勤で交代して進め方や、事件の争点の捉え方がガラッと変わることも、そんなに珍しいことではありません。
ですので、変な話、裁判官の対応に疑問を感じたり、正直、合わないなと感じるときは、心の中で「早く転勤してくれないかな」なんて思っていたりすることもあるわけです。
一方、個々の裁判官のやり方というよりは、裁判所内部で、この種の事件の手続は今後このように進めて行こうという方針が立てられた結果として裁判手続が変わったなと感じさせられることもこれまた少なくありません。
裁判も、時代にあわせてどんどん進化、変異していくのです。
最近、遺産分割調停事件で、そのような経験をしたので、ちょっと取り上げてみます。

遺産分割の案件では、私たちが整理の過程で特に心がけていることがあります。
遺産分割では、まず遺産の範囲を確定し、次に遺産の評価を行うなどして、遺産の総額を把握することが論理的には先行します。
そのうえで、遺産に対する取り分(相続分)を確定して行き(もちろん、その中で本来の相続分ではなく、特別受益や特別寄与などの調整的な要素があるか否かの検討を行うこともあります)、そこから、誰がどれを取得するかといった具体的な分配方法を決めていく流れになるのです。
弁護士として、このような流れを意識しておくことはとても大切です。
というのは、実際の遺産分割の相談では、相談者は、この不動産がほしいとか、この金融資産がほしいという話にったり、自分はこんなに貢献したとか、相手は生前にこんなにもらっているといった話になることが多いのですが、そうした各論部分に入る前に、上記の順序で事案を整理していかなければ、そもそも相談者の希望がかなえられるかどうかがきちんと見極められないし、方針も立てられないからです。

以上のお話は、私たち弁護士が遺産分割事件を扱う上で必要な論理的な思考プロセスなのですが、最近、複数の遺産分割調停の手続で、裁判所がこの思考の流れを積極的に取り入れ、それでもって手続を進めようとしていると感じるようになりました。
具体的にどういうことかといいますと、調停手続で、調停委員が、「遺産の範囲と遺産の評価を確定して、遺産の総額について双方が了解する」という手順にやたらとこだわっているという印象があります。
それ自体、考え方の順序としては正しいと思うのですが、実際の調停の場では、それが確定するまでは、ほかの話を受け付けないという態度に固執していたりするのです。
どうやら、それはたまたまということではなく、東京の家庭裁判所ではそのような方針で手続に臨むようになっているらしく、それが横浜の家庭裁判所にも波及しているのかもしれません。
実際、東京や大阪などの大規模庁での手続きの進め方が周辺、そして地方へと波及するということはよく見られるのですが、この遺産分割調停の進め方についてもそのような流れなのでしょう。

しかし、率直に言って、このやり方を強く推し進めることについては、間違いとまでは言いませんが、やや柔軟性に欠けるという気がしてなりません。
確かに、「遺産の評価を確定して、遺産の総額について双方が了解する」ことが論理的に先行することはそのとおりですが、実際の協議の中で、並行して、分け方の議論をしたり、相続分の調整に関する言い分をぶつけ合うことをやっておくことは、手続をスムーズに進めることに有用なケースはいくらでもあるからです。
また、遺産の総額が確定するまで解決方法に関する具体的な話し合いができないとなると、かえって手続が延び延びになってしまうこともあり、ケースによっては、一方だけが利益を得て他方が不当な不利益を受けることも決して少なくないのです(一方が遺産である不動産に居座っているような場合なんかがそうです)。
ですので、原則論はともかく、裁判所においても、ケースバイケースで柔軟な進行を心掛けてもらいたいと思ったりするわけです。
ただ、いずれにしても、弁護士としては、こうした実務の状況を理解しておくことが大切であることに変わりはありません。
何事も日々精進ですね。

2023年08月21日 > トピックス, 事件日記
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