
事件日記~刑事事件、少年事件で奔走する日々
今、当事務所では、メンバー全員が何らかの刑事事件もしくは少年事件に関わっています。
もちろん、元々、それぞれに取り組んではいるのですが、全員が同時にというのは、この事務所を開設してから初めてのことかもしれません。
局面はそれぞれですが、刑事事件にせよ、少年事件にせよ、短期間で集中的に弁護活動(少年事件だと家裁送致後は付添人という名称になります)を行わなければなりません。
元々、多くの弁護士は日々の業務の中で裁判等の準備や打ち合わせに追われているものなのですが、刑事事件や少年事件は、そこに割り込んで来て、駆けずり回らなければならないわけで、弁護士としては突然降って湧いたような忙しさに明け暮れることになります。
実際、少年事件の場合だと、家裁送致から大体3週間前後で審判期日が入りますし、被疑者段階の刑事事件では勾留は10日、延長されて最大10日というところで処分が決まりますから、2~3週間の間に、できる限りのことをやらないといけないわけです。
少年事件だと、少年院行きかどうかが微妙な事件だと、審判段階で「試験観察」という審判が出ることがあり、その場合は、さらに数か月最終審判まで関わって少年の更生に手を尽くしてあげないといけないのです。
また、刑事事件のほうも、起訴されれば、被告人となり、公判手続に移行するわけで、勾留という身柄拘束が続くのであれば、保釈申請をしてあげなければいけないであったりとか、大変な状況が続くことになります。
ちなみに、保釈申請のことについてよく質問されるのですが、捜査中の被疑者段階の勾留には保釈という制度はなく、日本では、保釈が可能となるのは起訴後になります。
ただ、刑事事件であれ、少年事件であれ、その人や家族の人生、将来が掛かっているといえるような事件は少なくありませんから、弁護人、付添人の責任は非常に重いといえますし、やることは山のようにあります。
少年事件で、今後の更生のため、時には学校の先生に会いに行ったり、環境を変えるためにつてを頼ったり、刑事事件で被害者に会い、謝罪、示談をするために夜遅く遠方に出かけたり、身柄拘束を短縮するために、裁判所に不服申し立て(準抗告といいます)をしたり等々、とにかく局面、局面で、知恵を絞り、てきぱきと動くことが求められます。
弁護士にとっても、瞬発力が必要な事件領域なのです。
もちろん、罪や罰が軽くなればいいということだけではなく、被害者がいれば被害回復を図ってあげなくてはなりませんし、自らの行いを見直し、将来に生かしてもらえるような関わり方も必要なわけですが、それだけに、刑事事件や少年事件に関わり、やり終えた時の達成感は、またひとしおのものがあります。
弁護士たるもの、ずっと、刑事事件、少年事件に関わって行かなくてはならないと、そう思うのです。
事件日記~個人再生事件が続いています
〇月✕日
前にもちょっと書いたとおり、私たちの事務所では、ここのところ、なぜか続けて個人再生の事件を受任しており、そのうち、すでに申立済みの事件については、ほどなく再生計画が認可される見込みとなっていますが、このたび、約半年ほどの準備を経て、新たにもう1件の申立を行いました。
前にもちょっと書きましたが、個人再生とは民事再生法の中の一制度で、個人事業者や給与生活者のための手続となります。
この制度ができたことによって、多重債務を抱えて相談に来られる方にとっての選択肢の幅が広がりました。
それまでは破産か任意整理(個々の債権者との任意の交渉による解決)という選択だったのですが、破産だと負債も消える代わり、不動産などの資産も失うことになるのが通常ですし、任意整理では負債そのものは減らないことも多く、十分な返済資力がない方にとっては経済的に厳しい選択となります。
その点、個人再生であれば、条件にもよりますが、負債を圧縮しつつ、不動産を残すことが可能になるわけで、築き上げた生活を維持したいと希望される方にとっての有力な選択肢となるわけです。
もちろん、個人再生が認められるための要件の検討が必要となりますし、どの程度メリットがあるかを把握するために清算価値チェックシートなるものを作成しなくてはなりませんから、実際の手続の利用については、一定の経験を持つ弁護士によるそれなりの検討と準備期間が必要となります。
それと、破産との違いでいうと、破産の場合は、「負債を支払うことができない」ということを手続きの中で明らかにしていかないといけませんが、個人再生の場合は、「そのままの負債を支払うことは無理だけれど、ルールに従って圧縮された負債なら返済できるという見通しがある」ということを裁判所に示していかなければなりません。
個人再生は、負債が増えて経済的には厳しい状況にあるけれど、不動産を何とか残していきたいと希望をお持ちの方にとっては、一筋の光明ともいえる制度ですが、その分、経済的なハードルは高くなります。
ところで、実際に私たちのところに相談に見える方は、必ずしも、最初から個人再生を念頭に置いておられるとは限りません。
いろいろお話を伺う中で、その方にとっての最も良い選択が個人再生手続であろうという結論になって行くというパターンもあるわけです。
また、今後の収入見通しが不確定であったりする場合もあり、準備を進めながら、個人再生の適用条件を満たしていくように努力をしていただかなければならないということもあります。
そういう意味からすると、個人再生は非常に動的な手続であるともいえるわけです。
個人再生手続が視野に入るような事例の場合、相談、依頼を受ける弁護士にとっては、選択肢が増えた分、判断に迷うケースも増えていますし、それぞれの手続きの内容や得失に関する説明に時間を取られる大変さもありますが、家族のために不動産を残してあげられるメリットのある個人再生が利用できれば、弁護士にとっても、良い仕事ができたという満足感もより大きなものがあります。
自宅不動産を手放したくないけれど、債務超過で困っている方がおられましたら、諦めずに、ぜひ個人再生も視野に入れた検討をされてみるとよいと思います。
なお、最初に書いた、近々計画が認可される見通しの事件については、手続中にちょっと珍しいけれど今後に役立ちそうな経験もしましたので、いずれまた取り上げてみたいと思います。
医療事件日記~電子カルテの改ざん
〇月✕日
最近は、依頼者が、任意開示によって入手したカルテを持参して相談に見えることが多くなっています。
もちろん、依頼者の方にとっては、その方が費用の点では多少なり少なくすみますし、証拠保全手続を取れば相当時間もかかるわけですから、そうした意味で任意開示には一定のメリットがあるからです。
弁護士にとっても、最初からカルテがあった方が、事案の検討がし易いともいえますので、この点でも、任意開示はカルテの入手方法として十分に選択肢となり得るといえます。
しかし、現実に、任意開示で入手したカルテを検討してみると、時に愕然とすることがあります。
それが何かといえば、任意開示されたカルテでは、真相が明らかにできないことがあるということです。
現在扱っているある医療事件においても、任意開示された記録中で、検査記録と、医師が記載した医師記録の記載が明らかに矛盾していました。
守秘義務の問題がありますので、具体的に述べることは控えますが、検査記録では〇〇と記載されているのに、医師記録では✕✕と記載されていて、事実として明らかに食い違っているというわけです。
その部分は医師の行った行為に関するものですし、およそ誤記するような事象ではないので、相談した協力医の方も「どうして食い違っているのか?」と首を傾げていました。
これはほんの一例ですが、残念ながら、医療機関が、事故後にカルテを改ざんしたり、事実と異なる説明をするという、事故隠し的対応をすることは、後を絶ちません。
実際、医療機関にとっては、ミスをしたという認識がある症例で、患者側からカルテの任意開示を求められた場合には、「不都合な真実」を知られたくないという心理が働くことは十分にあり得るところでしょう。
経験的にも、任意開示で出て来たカルテを検討すると、「あるはずの重要な資料が抜けている」とか「記載に矛盾がある」といったようなことは、先ほどの事例に限らず、決して珍しいことではありません。
正直申し上げて、かつては、巧妙にカルテを改ざんされてしまうと、真相解明は非常に困難でしたし、今でも真相解明のハードルは当然に高くなります。
しかし、最近は、総合病院クラス以上であれば、電子カルテを導入しているところが多くなっていますので、ちょっと様相が異なって来ています。
電磁記録である電子カルテでは、改ざんをするとその更新履歴が残るからです。
電子カルテになる前は、記録された時刻まではわからなかったのですが、電子カルテであれば、何分何秒まで記録されるというメリットがあるのですが(このメリットや実際の証拠保全の現場でのことについてはまたいずれ書きたいと思います)、更新についてはさらに更新前後の記載が残ります。
ですので、電子カルテの改ざんが疑われる場合には、証拠保全で更新履歴、更新前の記載を確認し、それを保全すればよいわけです。
ともあれ、やはり、医療ミスの可能性があり、医療機関側がそれを否定するような態度を取っている場合には、まず初めに弁護士に相談し、任意開示でよい事件か、証拠保全すべき事件かを検討してもらっておくことをお勧めします。
事件によっては、事実として何があったかが争われる可能性がありますから、そうした場合は、改ざんを誘発する可能性のある任意開示よりも、抜き打ち的な証拠保全によるべきと考えられるからです。
事件日記~離婚と公正証書
〇月✕日
ある離婚事件で、話し合いの結果離婚条件が定まり、公正証書を作成しました。
依頼者は生まれて間もない子供を抱えた女性で、夫の暴力などの問題もあり、別居に踏み切って相談に見えられた方でした。
主な争点は、慰謝料、親権、養育費、財産分与といったあたりでしたが、この内、慰謝料については、暴力行為自体の証拠自体はあるものの、慰謝料に固執すると、感情的なもつれから、事件が調停、訴訟へと移行し、長期化が避けられそうもなかったので、依頼者の早期解決の要望を踏まえ、財産分与の中でプラスアルファを得られれば良いということで、慰謝料請求には強く拘らないということになりました。
このあたりの判断については、個別の事情や感情的なこともあって、ケースバイケースで判断するしかありませんが、この事件では、依頼者自身、傷つけあうことは長い目で見て得策ではないと判断されたというもので、結論としては賢明だったと思います。
その代わりというとなんですが、養育費の支払いについて、一般的なケースとは異なり、早期に前倒しでの支払いを得られるという条件を獲得することが出来ました。
本来、養育費とは、毎月毎月発生するものなので、早期の一括という条件を実現することは理屈的にも難しいところがあります。
しかし、子供を抱える女性にとっては、特に子供が幼い時期は働きに出ることも難しいわけですから、そうした時期に前倒しで養育費をもらえることのメリットは非常に大きいといえます(実際、子供がある程度の年齢になれば、働き始めるという選択もできます)。
そうした条件を盛り込んだ合意書を作成の上、その事件ではさらに公正証書を作成しました。
調停、訴訟による解決と違い、単なる合意書では、いざという時の約束違反に即座に対応できないということもあって、離婚の際に、執行力のある公正証書を作成するという選択をする場合があります。
相手を信用するかどうかの問題ではなく、経済的な面でハンディのある母親側の利益を守ってあげるための有効な手立てといえるからです。
信頼できる公証人とのやりとりを重ねて公正証書を作成し、事件は終結しました。
離婚は、夫婦双方にとって人生の再出発です。
この事件では、最初はかなり感情的な対立があったものの、交渉過程ではお互いを攻撃し合うというようなやりとりは避けられたし、最終段階では直接会うこともできて早期に双方が納得できる解決ができたように思いますし、離婚後は、双方とも前向きに人生を歩んでくれるに違いないという手応えがありました。
人生に幸あれ!ですね。
事件日記~甘く考えてはいけない!「自転車の交通事故」
〇月✕日
自転車の交通事故で依頼者の方に後遺症診断が出ることになりました。
事件は、ある高齢の女性が自宅の近くの道を歩いていた時に、前方から走って来た自転車の男性がわき見をしていて、いきなりその女性に衝突したというものです。女性はそのまま病院に運び込まれましたが、右足骨折の大けがでした。その後、1ヶ月余り入院し、さらに2年以上もの通院を重ねたものの、結局、杖なしでは歩行できないという重大な後遺症が残ることになりました。
ただ、不幸中の幸いだったのは、加害者の男性が自転車の損害賠償保険に入っていたことでした。
ニュースなどで取り上げられてご存知の方もおられると思いますが、少し前には自転車の事故により数千万円以上の高額賠償が命じられたという判決も出ています。
今回の被害者の場合、損害保険でそういった損害はカバーされることになりますが、もし損害保険に入っていなければどうなったでしょうか?
加害者の経済状況によっては、重大な後遺症を負ったにもかかわらず、被害者は満足な賠償を受けられないことになりますし、逆に、加害者にとっても高額な損害賠償の債務を負うことになり、そのために財産を失い、あるいは一生かけて弁償を続けなくてはならなくなります。被害者、加害者双方にとって、人生を大きく狂わせかねないわけで、ちょっとした油断がもたらすかもしれない重大な結果を想像すると空恐ろしささえ感じます。
しかし、現状では自転車のために損害保険契約に加入している人は非常に少ないのではないでしょうか。
大人から子供まで、ママチャリからスポーツ自転車まで、自転車はあまりに身近な乗り物であるだけに、事故に遭遇する危険もまた非常に高いといえます。
私たちは保険会社の回し者ではないけれど、こうした事故を目の当たりにすると、やはり、ご自身あるいは家族が自転車に乗られるのであれば、損害保険契約への加入を真剣に考えた方がいいと思うわけです。
ただ、もう一つ思うことは、自転車は身近で手軽でエコな乗り物なわけですが、その一方で、日本では、車が優先されていて、自転車が安心して走行できるような環境が必ずしも整備されていないように感じますし、自転車に関するルールも非常に曖昧だと感じます。
そうした曖昧な位置付けでありながら、いったん事故が起きてしまうと、重い責任を負わされるわけで、正直、自転車の事故については、起きた状況によっては、ルールや環境の整備をきちんとやっていない国や自治体こそが責任を負うべきなのではないかと考えたりします。自転車は小学生だって普通に乗るわけですからなおさらです。
またそうなると、やはり早い段階から、自転車の交通ルールについて学ぶ機会であるとか、実地での研修のようなものも必要だと思います。
いかがでしょうか。