事務所トピックス

事件日記~転ばぬ先の任意後見契約

葵法律事務所

前に一度ここで取り上げた任意後見契約についてですが、超高齢化社会の現状を反映してか、高齢者の方やそのご家族からの別件のご依頼を受けていても、そこから任意後見契約の手続の相談に移行するケースが増えているように感じます。
任意後見契約の意義やそのやり方については昨年アップした記事をお読みいただければと思うのですが、そもそも、任意後見契約はすべての方に必要ということではありません。
一方で、個別のご事情を伺ってみると、明らかに任意後見契約を締結しておいた方がいい、あるいはそうしておけばよかったという場合もありますので、そのあたりの判断の分かれ目についてちょっと整理して述べておきたいと思います。

たとえば、一人っ子で、すでに両親の内のお一人が亡くなられていて、さらに親子関係が良好というような場合には、任意後見契約を締結する必要はないといっていいでしょう。
後見が必要な状況になった時に、お子さんが成年後見人選任の申し立てをし、ご自身を成年後見人に推薦すれば、よほど問題がない限りそのとおり選任されるはずだからです。
また、推定相続人、つまり、将来相続が発生した時に法定相続人となるはずの人が複数いるとしても、その関係が極めて良好で、誰が後見人になるかについて争いが起きないことが確実な場合には、同様に、あえて任意後見契約を締結する必要がないといえます。

逆に、推定相続人同士の関係が悪い、あるいは微妙で、誰を後見人にするかにつき、将来争いが起きる確率が相当程度ありそうな場合には、療養監護や財産管理を任せたい人をあらかじめ指名しておく必要性が高いといえますので、任意後見契約を締結しておいた方がいいといえます。
これは、裁判所における後見人選任の際に、手続上、推定相続人の同意を得ておく必要があるため、推定相続人間の関係が悪いと同意が得られないこともあるからなのですが、それゆえ、たとえば、推定相続人の内に音信不通の人がいるというような場合も、やはり任意後見契約を締結しておくことに意味があります。
あと、推定相続人の中に、自身の将来の療養監護や財産管理を任せたい人がおらず、それ以外の親戚や友人に任せたいというような場合も任意後見契約は有用です。
このようなケースは当事務所で扱ったことがあるのですが、その方は高血圧の持病があって、任意後見契約を締結してしばらくして倒れられ、要後見状態となりました。
しかし、その方は、推定相続人ではないけれど、信頼を寄せている方に後見人になってもらうということであらかじめ任意後見契約を締結していたので、その方にずっと身の回りの世話をしてもらい、その後も安心して暮らされ、天寿を全うされました。
まさに「遠くの親戚よりも近くの他人」というわけですが、穏やかに老後を過ごすために任意後見制度が有効に機能したケースといえるでしょう。

もちろん、将来の財産管理や療養監護を誰に任すべきかの判断を誤ると、かえってあとあとで大きなトラブルとなることもありますし、そのあたりの判断力が知らず知らずの内に衰えてしまっているということもあり得ます。
実際、最近でも、任意後見契約の制度を悪用しているのではないかと思えるような事例もありましたので、誰との間で任意後見契約を締結するかの判断については軽々になさらないで、やはり弁護士などの第三者に相談する慎重さも必要だと思います。

以上、参考にしていただければ幸いです。

2018年05月13日 > トピックス, 事件日記

事件日記~予防的刑事弁護のお話

葵法律事務所

昨年は、葵法律事務所の弁護士は、全員、刑事弁護にかなり多く取り組んだ一年となりましたが、実際に事件に関わって強く実感することは、いったん、刑事事件の被疑者、被告人となってしまうと、受ける刑事処分のみならず、一人一人の社会生活で受けるダメージがとてつもなく大きくなってしまう場合があるということです。
現に、逮捕勾留によって仕事や家族とのつながりを失ってしまうということもありますし、少年事件であれば退学処分、外国人であれば、在留資格を失い、国外退去処分となることもあります。
まさに生活の基盤を根こそぎ奪われる状況に追い込まれてしまうことも事案によっては十分に起こり得ることなのです。
そうしたぎりぎりの状況の中で刑事弁護活動をしながらよく思うことは、もっと早い段階で対応できていればよかったのにということです。
特に被疑者段階では、身柄拘束に入ってしまうと、逮捕から最大で3週間で、起訴か不起訴の判断が出てしまいます。
本来は、およそ刑事処分を受けるような事件ではないのにとか、なぜこんなことで逮捕勾留に至ったのかとか、いろいろと疑問を感じるような事件もありますが、それでも起訴されれば間違いなく有罪となってしまう事件であるとか、有罪となれば実刑を避けられないという事件だってあるわけです。
そのため、私たちも、弁護人となれば、犯した罪以上の過大な不利益が生じないよう、頑張って弁護活動に取り組むのですが、そうはいっても、時間的制約が伴う逮捕、勾留後では、主導権は捜査機関側が握っていますし、また、最近は被害者のプライバシーを尊重するということで、被害者側の情報を得ることが容易ではなくなっていることもあったりなど、弁護人としてできる活動にはおのずと限界があります。
限られた時間の中で刑事弁護に取組んでいると、壁にぶち当たる感じようなジレンマをしばしば感じるわけです。

その一方で、私たちが扱う事件の中には、これは対応を誤ると刑事事件になるということがある程度予測できるものもあります。
実際の事件でも、このまま対応しないでいると刑事事件化してしまうことが予期できて、早めに被害者側と折衝し、示談を行うなどして、事なきを得ることができたケースは決して稀なことではありません。
そう考えてみると、このような弁護士活動も、広い意味では「刑事弁護」にあたるといえるでしょう。

もちろん、弁護士の仕事は、民事事件でも刑事事件でも、事件が起きてからの対応が中心とはなりますが、事件化を防ぐための予防的な活動もまた非常に大切で有意義な仕事であることは間違いのないところです。
たとえば、民事事件でも、依頼者がある契約を締結しようとするときに、その契約書を事前にチェックして訂正を助言してあげれば、その後に依頼者が、不用意な契約による不当な不利益を受けないで済むようにできるわけですが、刑事事件も同様です。
ですので、もし、今後トラブルが顕在化すれば刑事事件になるかもしれないいう状況に陥った場合には、早めに弁護士の助言を受けられることは非常に有用なことだと思います。

2018年02月14日 > トピックス, 事件日記

事件日記~任意後見の勧め

葵法律事務所

最近、非常に増えていると実感するのが、高齢者の介護や財産管理に関する相談や依頼です。
もちろん、その背景には、日本が世界でも例のないといわれるほどの急激な少子高齢化社会になって来ているということがあるわけですが、いずれにしても、私たちは、誰もが、遅かれ早かれ、自身、あるいは親や配偶者の問題としてそうした現実に立ち向かわなければならないわけです。
高齢者の介護や財産管理ということでいえば、真っ先に思いつくのは、成年後見制度の利用だと思うのですが、成年後見自体は、身近な人に判断能力の衰えが起きてから利用する制度ですので、現実には、どうしても後手後手の対応になってしまうこともありますし、また、手続を利用しようとしたら意外なところで手間取ってしまい、結果、被後見人ご本人の権利を擁護するという目的からすると必ずしも十分といえなくなってしまうケースも少なくないように感じます。
たとえば、最近とみに増えているのが、一人暮らしをされている老人に関する事件で、現在、当事務所の弁護士は全員がそうした案件を抱えてしまっているのですが、すでに認知症を発症されている中では、医療や介護といった問題でどのような方針を立ててあげるべきなのかの判断がなかなか難しいということもあり、弁護士としても、非常な葛藤を抱えてしまうこともあります。
そうした一人暮らしの老人の場合だと、親族の協力が得にくいという場合もありますし、そうなると、成年後見人選任の申立自体に難儀することもあり、必要な医療や介護すら十分に受けられないという事態さえ起きるのです。
こうした現実にぶつかると、つくづく日本という国は、高齢者に優しくない国なのだということを痛感しますし、こんな国に誰がしたのだと憤りを感じたりするのですが、とにかく、何が申し上げたいかといえば、後見が必要な状態になってからでは遅いということもあるので、「転ばぬ先の杖」として、お元気なうちに、「任意後見」という制度の利用の検討を強くお勧めしたいと思うのです。

まず、任意後見とは何かですが、端的に言えば、いざ後見が必要となる日に備えて、あらかじめ後見人になってくれる人を選んでおくというものです。
成年後見制度が整備されたときに、併せて設けられた制度ですが、現実に利用してみると、この制度は、色々な意味でとても役に立ちます。
任意後見は、正確には、任意後見「契約」といいます。
つまり、ご本人が、お元気なうちに、後見人になってもらいたい人との間で、「いざ、後見が必要な状態になったら後見人に就任してもらう」ことを合意しておくのです。
ただ、ご本人の真意を確認するために、公正証書にしなくてはならないことになっており、手続的にはちょっと手間がかかることになりますが、制度の悪用を防ぐためにはとても意味のあることです。
もう一つ、任意後見契約の締結と併せて、財産管理に関する委任契約を締結することがあり、セットで公正証書にするという実務的な運用がなされています(もちろん任意ですが)。
実際に、高齢者の介護や財産管理に関わっていると、任意後見契約もさることながら、この財産管理に関する委任契約は、あるととても役に立ちます。
なぜかというと、人間の判断能力の衰えは急に来るというより段々やって来ることの方が多いので、そうした状況で臨機応変に対応できるからです(あと、体調を崩して預金の出し入れや手続ができないという場合にも対応してもらえるという利点もあります)。
最近、受けた相談で、判断能力が衰えつつある高齢者がいわゆるリフォーム詐欺に遭っているという事件があるのですが、あらかじめ財産管理に関する委任契約が締結されていれば、もっと適切に対応できるのにと思うこともありました。

もちろん、任意後見契約を締結するについては、その相手が本当に安心して財産管理を委ねられる、信頼に足りる人かどうかが何より重要です。
判断能力が衰えてしまった後では、そうした人物の見極めを誤ってしまう危険もあります。
その意味でも、できるだけ早い段階で、任意後見制度の利用を視野に入れて、弁護士等に相談されることをお勧めしたいと思うのです。

2017年07月23日 > トピックス, 事件日記

事件日記~刑事事件奮闘記

葵法律事務所

前にちょっと書いたのですが、なぜか、葵事務所では、今年、いつも誰かが刑事事件に関わっているという状況が続いています。
ここまで長く、刑事事件に事務所のメンバーが関わり続けているというのはなかなかないことだと思いますし、現在も、さらに新しい刑事事件を引き受けたりもしています。
そこで、差し支えない範囲で、刑事事件に関する事務所のメンバーの奮闘についてご報告しつつ、弁護士の弁護活動の実態がどのようなものであるかをご紹介したいと思います。

「勾留延長決定に対する準抗告」
この事件では、被疑者勾留が長引くと、仕事先との関係で被疑者が解雇される恐れが高まるため、何としても週を超したくないという事情があったことから、最初の10日間の勾留に続いて裁判所が行った10日間の勾留延長決定に対し、準抗告という手続を取ることになりました。
実は、この事件では、勾留に対しても準抗告を申し立てて却下されており、その後、最初の勾留満期の段階では、検事に対して不起訴処分と早期釈放を求める意見書も提出していますが、検事はそれに応じず、勾留延長請求がなされ、裁判所において勾留延長決定が出されていたのです。
これ以上の身柄拘束は不当、不要であり、また被疑者の生活の基盤を破壊しかねない有害な身柄拘束だと考えていたので、この勾留延長決定に対し、準抗告申立に踏み切りました。
手続にあたり、裁判官への面会要望を出しておいたところ、裁判所から午後7時前という遅い時間になって電話があり、「書面で書いたこと以外に何かありますか?」と尋ねられたので、書面に書ききれていない家族のデリケートな事情等を説明したのですが、週内の釈放であれば解雇を避けられそうな見通しもあったため、「もし、勾留延長を維持するとの判断が出るのであれば、せめて5日に短縮してほしい」と付け加えておきました。
延長が5日だと週内釈放となります。
すると、午後9時過ぎになって裁判所から電話があり、「勾留延長決定は維持するが、5日間に短縮する」との連絡があったのです。
その結果、被疑者は何とか解雇を避けることができました。

「連休の谷間の保釈申請」
ある事件で、ゴールデンウイークの谷間に起訴されたある被告人について、元々、連休明けに本人も参加するはずの重要なイベントの予定が組まれていたという事情がありました。
もし、被告人がそのイベントに出席できない、あるいは事前打ち合わせにまったく参加できないとなると、対外的な信用を失い、今後の仕事にとって致命的なダメージとなる可能性が非常に高いという、こちらもかなり切羽詰まった状況となっていたのです。
そこで、起訴後ただちに保釈申請をしたのですが、5月3日からは連休後半に入ってしまうので、実質的には5月2日の1日しかチャンスはありませんでした。
保釈申請をすると、裁判所が検事に意見を求めるのですが、この意見がなかなか戻ってきません。
そのため、こちらから検察官にも早急に意見を出してくれるよう催促したのですが、結局、裁判所に意見が戻って来たのは夕刻のことでした。
もうちょっと厳しいかなとあきらめかけていたのですが、裁判官と話をしてみたところ、添付しておいた被疑者が参加を予定していたイベントの資料を見てくれていおり、事情を理解してくれていたようで、本日中に必ず判断をすると言ってくれました。
結局、午後6時半ころに決定が出ることになり、多額の保釈金の現金を抱えて急いで裁判所に行き、会計で保釈金を納めて、無事、保釈が認められたのです。
その結果、本人は、無事、連休明けのイベントにも参加することができ、仕事上の信用を失うという事態をぎりぎりで回避することができました。
裁判官だけでなく、当日、午後7時近くまで、薄暗くなった会計係で待機していてくださった職員や、令状係の職員の方たちに心から感謝しつつ、裁判所を後にしました。

今年は、さらに勾留準抗告が認められた事件などもあるのですが、長くなりましたから、また別の機会に取り上げたいと思います。
ただ、こうした活動の中であらためて強く思うのは、刑事事件では、時として、弁護士にとっても相当な瞬発力が必要とされることがあるということです。
実際、今回取り上げた事件は、いずれも、単独ではなく、同じ事務所内の2人の弁護士で受任しているのですが、短期決戦で集中的な対応が必要な事件ですので、書面作成、接見、裁判所、検察官との折衝などを連携しながら手分けして取り組んでいました。
そうやって連携し、手分けすることで、1+1=2以上の成果を得ることができたようにも思います。
これからもこうした弁護活動に粘り強く取り組んで行きたいものです。

2017年07月04日 > トピックス, 事件日記

事件日記~雇用に関する「2018年問題」のお話

葵法律事務所

雇用に関する「2018年問題」をご存知でしょうか?
実は、最近扱っている事件で、労災給付支給中の有期雇用契約の労働者に対して、「次回は更新しない」という条件が提示されて、交渉の結果、撤回させることができたのですが、この事件で起きたことは、2018年に起きるであろうことの前触れではないかと思ったので、今回は、この問題を取り上げてみます。

雇用に関する「2018年問題」は、非正規で働く人たちにとっては、これからの生活の基盤を根底から覆しかねない非常に重大な問題といえます。
労働契約法が2012年に変えられ、2013年4月1日から継続して5年を超えて有期雇用契約が更新されている場合には、労働者側から申し出があれば期間の定めのない労働契約に転換しなくてはならないという制度になりました。
これだけを見ると、労働者にとって良いことのように思えますが、非正規雇用を「雇用の調整弁」、つまり、業績が悪くなったときに真っ先に切り捨てやすい存在と位置付け、正規雇用の率を上げたくないと考えるような使用者にすれば、この制度が発動する来年の4月になる前に、雇用契約を更新しない、つまり「雇止め」を行う、強い動機付けになることが非常に危惧されるわけです。
となると、そのタイミングは、5年の期限がやってくる来年の3月31日とは限らないことになります。
それよりもっと前の段階、たとえば、今年の9月30日から6か月の期間で契約更新の際に使用者側から、「次回は更新しない」という条項を付して合意を取り交わすというような働きかけがなされる可能性があると思います。
もちろん、有期雇用が、無期転換されるケースもかなり出て来るかもしれませんが、そうした場合には、制度の仕組みからして、「同一労働同一賃金の原則」との乖離が生じる可能性があるわけで、いずれにしても、こうした状況に置かれる弱い立場の人たちにとっては、目を離してはいけない時期が迫ってきているといえます。
十分にご留意ください。

ちなみに、雇用に関する2018年問題は、これだけではありません。
2015年の労働者派遣法の改訂によって、有期雇用の派遣社員が同一の組織単位で働ける期間は3年までということになったのですが、いよいよその最初の期限が2018年9月末にやってきます。
また、この2つの改訂が絡んでくる問題として、予想されることがあります。
つまり、派遣社員の立場からすると、同じ派遣先で3年以上働けないとなると、その前に、労働契約法の要件を満たす派遣社員は、派遣会社との関係で無期契約への転換を求めることになりますし(そうなれば3年を超えて同じ派遣先で働けることになります)、そういう事態になると、派遣会社とすれば、大量の無期契約社員を抱えることになるので、固定人件費が増えることを嫌う派遣会社が「雇止め」に動く可能性が高いのではないかともいわれています。
すでに派遣会社側はあれこれ対策を検討していると思いますので、派遣労働者の方々も、漫然とその日を迎えるのではなく、あらかじめ、状況をしっかり理解し、そうした動きに対応できるよう、学習しておくべき時期に来ていると思うのです(もちろん、私たち弁護士も)。

2017年06月09日 > トピックス, 事件日記
Pages: 1 2 3 4 5 6 7
  • ٌm@{VAK
  • ٌm@ܖ{ai
  • ٌm@m
  • ٌm@|{D


 | 事務所紹介 | 弁護士紹介 | 取扱事件領域 | 費用のご案内 | トピックス 
(c)2016 葵法律事務所 All Rights Reserved.

ページトップへ戻る