事務所トピックス

事件日記~コロナ危機と「再生手続」

葵法律事務所

給与所得者や個人事業者の方が多額の負債を抱え、債務整理の相談に見えて法的な整理を選択する場合、裁判所の手続としては破産か個人再生の両方の選択肢があることについては、前にもこのホームページで取り上げたことがあります。
弁護士としては、その場合、できる限り個人再生手続での法的整理を実現してあげたいと考えるわけです。
もちろん、個人再生手続についても当然ながら一定の要件があり、要件にあてはまらず、申立自体ができないケースもあるわけですが、ハードルが高くても、依頼者とともにそのハードルを乗り越え、再生計画認可にたどり着ければ、自宅を処分しないで済むであるとか、これまでどおり事業を続けられるわけで、築き上げた生活基盤を維持できることになれば、その満足度は非常に高いものがあります。
今回のコロナ危機の実体経済、国民生活への影響は非常に重大ですので、ぎりぎりの状況における選択肢ということで、個人再生手続について取り上げてみたいと思います。

コロナ危機の影響は様々ですが、現状での急な収入減少は、住宅ローン、自動車のローン、事業の運転資金、子供の学費などの避けられない支出を抱えている方にとっては非常に大きなダメージとなります。
そして、いよいよ返済が難しくなれば、債務整理を検討しなくてはなりませんが、経験的に申し上げると、もう少し早い段階で相談に来てもらえれば別の選択肢があったのにと感じることは決して稀なことではありません。
前述のとおり、抱えた債務に対する法的整理の方法としては、大きく分けて破産と再生手続があるのですが、破産と異なって、再生手続を選択すれば、前述のとおり、不動産を残し、商売も続けて行ける可能性があります。
もちろん、再生手続にも要件があり、そもそも要件を満たしていない場合もあるのですが、要件を満たすかどうかが微妙な場合に、再生手続前提で弁護士が介入し、生活を立て直しながら、再生の要件を満たすように準備をして行くこともケースによっては十分可能なことです。
たとえば、弁護士介入により、債権者への返済をいったん止め、当面の経済的な余力を確保し、ご自身の収入増に注力してもらい、それをしばらく続けながら再生手続の最重要要件である将来の安定した収入の見込みを認めてもらえるよう実績を積み上げて行ければ、要件クリアとなります。
また、自宅の不動産を保有し続けたいのであれば、原則として住宅ローンの支払いは続けないといけませんが、滞納が続くと代位弁済がなされてしまい、そうなると再生手続における住宅ローン特別条項の適用が受けることが非常に難しくなって、不動産を手放さざるを得なくなります。
そうならないためには、代位弁済されてしまう前に、弁護士が介入して他の負債の支払いを止め、住宅ローンだけは優先的に支払えるようにし、あわせて早期に住宅ローンの債権者である金融機関との話し合いを開始しておくことが肝要となります。
再生手続の場合、清算価値チェックシートで資産評価を行った結果にもよりますが、多くの場合、住宅ローン以外の一般債務は5分の1程度に圧縮され、それを3年もしくは5年の分割払いで返済すれば足りることになりますから、この手続を利用するメリットは非常に大きいといえます。
しかし、上記のような要件の制約があり、またタイミングを逸して経済状況が厳しくなれば、活用できたはずの再生での生活確保が不可能となってしまうことになりかねません。
ですので、本当に切羽詰まるよりも前に、早め早めに再生手続を利用できる見込みについての検討を開始すべきです。
なお、手続費用ですが、弁護士が申立代理人となる場合とそうでない場合とでは裁判所に納める予納金の金額が少し違ってきます。
これは、申立代理人である弁護士が、裁判所の個人再生委員の仕事の一部を負担するため、その分予納金を低くしてくれるのです。
もちろん、弁護士に依頼するとなると弁護士費用がかかりますが、分割に応じてくれる弁護士もいますし、再生手続には前述したようなテクニカルな要素もありますので、手前味噌ではありますが、弁護士に相談することをお勧めしたいと思います。

事件日記~ある刑事事件における勾留請求却下決定

葵法律事務所

それまで平穏な日々を送っていたのに、ある日突然刑事事件の被疑者になってしまうということは、実際、誰にでも起き得ることです。
弁護士なんて因果な商売をやっているとつくづくそう思うのです。
実際、最近当事務所で扱ったある刑事事件はまさにそのような事件であり、正直なぜこれが刑事事件になり、身柄拘束にまで至ったのかということも疑問ですし、捜査のプロセスにおける捜査機関の手法にも非常に問題があると感じました。
その事件では、努力の甲斐あって勾留請求が却下され、被疑者は早期に自由の身となれたのですが、時間的制約もある中での弁護活動は非常に難儀なものです。
というわけで、捜査のあり方に警鐘を鳴らす意味も含め。ここで取り上げてみます。

事件は、男女間のトラブルがきっかけで起きたものです。
最近親しくなった女性から、いきなり自宅に呼びつけるような連絡が入り、被疑者となる男性が女性の自宅に行ったのです。
ここからは双方の言い分が食い違うので、いったん端折りますが、男女は口論からもみ合いになり、男性が女性の首を絞めてけがをさせたということで刑事事件になります。
男性は後日自宅を訪れた警察官により傷害罪でいきなり逮捕されます。
その日、すぐに連絡が入り、接見に行き、男性の言い分を確認しました。
男性によると、女性宅に呼びつけられて自宅に行ったところ、酔っぱらっていた女性に絡まれ、興奮した女性が平手で暴力を振るって来たそうです。
そこから女性が今度は手拳で殴り掛かって来たので、さすがにそれを制止しようとして体を抑えたりしたところ、女性はさらに興奮し、足で蹴りつけるなどしたとのことでした。
そこからもみあいになって、倒れこんだものの、女性がさらに暴行しようとしたので、やめさせようとして首のあたりを抑えようとしたものの、女性がますます激昂し、怖くなったのでそのまま逃げ帰った、これが被疑者である男性側の言い分でした。
刑事事件になってしまっている以上、女性の言い分はまったく逆なのでしょうが、事件は室内で起きたものであり、直接その場面を目撃した第三者はいませんので、おそらく、女性の言い分だけでいきなり警察に逮捕されたことになります。
勾留請求が迫っているので、すぐに検察官に連絡を取り、面談しました。
「双方の言い分しかなく、正当防衛の可能性もある事件だし、男性は横浜市内で真面目に商売をしている人物なのだから、少なくとも勾留の理由、必要性はないはずだ」という意見を述べ、勾留請求を行わないよう求めました。
さらに、その日は、東京で仕事があったので、意見書作成の準備の時間的余裕が必要なため、念のためと思い、「もし勾留請求に踏み切るなら、裁判所に勾留請求の却下を求めたいので、勾留請求すると決めた時点で連絡してほしい」と頼んだところ、検察官は「連絡します」と答えていました。
しかし、午後4時を過ぎても検察官から連絡がないため、こちらから連絡をしたところ、担当事務官から、すでに勾留請求をしたとだけ伝えられました。
検察官に代わってもらい、「約束違反ではないか」と抗議しましたが、検察官からは「そんな約束はしていない」と開き直られてしまいました。
日々の業務の中では、このように足元を掬われることも時折ありますが、勾留がついてしまうと少なくとも10日間近くは身柄拘束されてしまうわけで、被疑者にとっては仕事上も非常なダメージがありますから、検察官のアンフェアな対応に本当に怒り心頭でした。
ただ、こうなった以上、裁判官との交渉にかけるしかないので、すぐ裁判所に電話し、面接を申し入れ、並行して意見書を作成しました。
面接では、裁判官に事案に関する被疑者の言い分や被疑者の抱えている事情を伝え、勾留請求を却下してもらうよう口頭でも意見を述べ、その日急いで準備した親族の身元引受書を提出しました。
その日の夜になって裁判所から勾留請求却下の連絡が入り、午後8時頃でしたが、被疑者は釈放され、身元引受人とともに無事自宅に帰ることができたのです。

早期に身柄拘束を解き、自由にしてあげることは、刑事事件を担当する弁護士にとっては非常に重要な役割の一つですが、実際、身柄拘束による被疑者の社会的不利益は非常に重大なものがあります。
被疑者段階の勾留は原則として10日間であり、さらに通常事件ではもう10日間延長ができますので、逮捕からいうと3週間以上にも及ぶことになりますし、大体が予想できていない事態ですので、この身柄拘束が社会的な意味で致命傷となることも決して稀なことではありません。
また、逮捕から勾留請求までにはわずかな時間しかないので、その間に勾留をさせないようにするための弁護活動を行うことはそう容易なことではなく、弁護士にとっても相当な瞬発力を求められます(当事務所の場合、そのような状況になれば、複数弁護士で対応することもあります)。

逆に、捜査の現状を見ると、逮捕にせよ、勾留にせよ、お役所におけるルーティーンというか、流れ作業のように手続が進められているのではないかと感じることも少なくありません。
それは、決して、捜査機関の問題のみならず、裁判所においてもしかりで、実質的に見て勾留の理由があるのか、また、勾留によって身柄拘束をする必要性があるのかを、事案ごとに裁判所がきちんとチェックしてくれていないのではないかと思うこともあります。
すべての事件で弁護士が適切かつ機を逸することなく対応できるわけでもありませんが、検討されるべき事情を裁判所に気づいてもらうという意味で弁護士の役割は大きいといえますし、弁護士が捜査機関の問題性を裁判所に知ってもらうことは、勾留制度が適切に運用されるという意味でも非常に重要なことだと思います。
とにかく、もし何らかのトラブルによって逮捕されることがあったら、いえ、もしかすると逮捕されるかもしれないという状況になったら、できるだけ早めに弁護士の助言を仰ぐことを強くお勧めします。
いったん強制捜査のレールに乗ってしまうと、そこから降りることは必ずしも容易なことではないからです。

2020年05月12日 > トピックス, 事件日記

事件日記~遺言作成にあたっていろいろと注意すべきこと

葵法律事務所

遺言は、遺言者の人生の集大成として、死後に自身の財産をどうしたいかを書面の形で残すものですが、死後のトラブルを避けるという意味合いもあるので、一定の財産を保有されていて、複数の推定相続人がおられる場合には、ぜひ作成を検討されるとよいと思います。
ただ、いざ遺言を作る段になったら、それぞれのご事情に応じて、いろいろと気をつけなくてはならないこともあります。
実際、良かれと思って作ったはずの遺言が、かえって、予期せぬ形で相続人間でトラブルのもととなったり、遺言者の本来の意思に沿った結果とならないといったことは決して珍しいことではありません。
というわけで、具体的な実例を踏まえつつ、いくつか注意点を指摘してみたいと思います。

まず、遺言を作るにあたっては、その時点におけるすべての財産を遺言の対象とするよう気を付ける必要があります。
しかし、自筆で作成したような場合には、例えば、不動産だけ、あるいはその時点に存在する特定の財産だけを遺言の対象としてしまうということがしばしばあります。
では、この場合、残りの財産、あるいは遺言作成より後に形成された財産の帰属はどうなるでしょうか。
これも基本的には遺言者の意思によって決まることになります。
ただ、その意思が遺言の中に明記されていればいいですが、それがはっきりしない場合は厄介です。
法的な表現でいうと、「持ち戻し免除の意思表示」があったか否かということになりますが、判例においては、それがなかったと評価されると、遺言の対象となっている財産を持ち戻しという方法で遺産に加えて計算することになり、仮にある相続人が遺言によって相続する遺産が自身の相続分にあたる額を上回ることになると、その相続人は残りの遺産については相続分を持たないと判断されることになるわけです。
しかし、実際のところ、それが遺言者の真意に沿うものか否かは何とも言えないところであり、判例の基準自体に合理性はあるものの、具体的なケースにおいては必ずしも本来の遺言者の意思に沿っていないこともあり得るところです。
いずれにしても、このような判例がいくつもあるということは、遺言の解釈を巡って死後に紛争が起きていることを意味しますので、それ自体、遺言者の望まない結果であるともいえるでしょう。
ですので、もし、遺言者が、残りの遺産の分け方について、何らかの希望を持っているなら、それも含めて遺言の中で明記しておくことが肝要なのです。

それとは違うケースですが、相続の順番が予期していたものと異なる場合、遺産の帰属がやはり遺言者の本来の意思とかけ離れた結果となることがあります。
たとえば、ある夫婦が続けて亡くなられるということは世上よく見られることですが、ある実例では、この順序の想定が不十分だったため、せっかく遺言を作成しておいたのに、非常に複雑な遺産処理が必要となり、特に、生前中にご夫婦が予期しておられなかったはずの、まったくお付き合いのなかった方までもが遺産分割協議の中に加わって来るという事態となりました。
その事件では、新たに登場した相続人の方が極めて常識的な方であったことから、最終的には早期に穏便に解決できたのですが、一歩間違えば、泥沼の数年がかりの紛争になりかねなかったわけです。
やはり遺言を作成するにあたっては、生じ得るあらゆる事態を想定しておくべきですし、時には遺言の中で細かく場合分けをするなどして、どのような事態となっても遺言者の意思が反映されるような内容にしておくことが肝要です。

あと、遺産分割を巡ってはいろいろと判例も出ておりますし、今回は特に触れませんが、形式的だけれど重要な要件もあり、方式によっていろいろな約束事もあるなど、注意すべきポイントがいろいろとありますので、遺言作成をお考えの方がおられましたら、早い段階で弁護士など専門家の助言を受けておかれるようお勧めいたします。

参考にしていただければ幸いです。

2020年05月11日 > トピックス, 事件日記

事件日記~労災事故の再審査請求手続

葵法律事務所

コロナ問題で大変な状況ですが、法律事務所のホームページですので、事件のことを取り上げなければと思います。
今回は、現在進行中の「労災の再審査請求」に関するご報告となります。

事件は、繁華街のとあるクラブ(女性が男性を接客する店の方です)で起きました。
男性客が女性店員に暴力を振るい、そのために女性店員は膝の十字靭帯損傷というかなり重い後遺症が残る傷害を負います。
当初は、経緯からして当然に労災が認められるであろうと判断し、加害者との示談交渉事件として受任しました。
ところが、予期に反して労災が認められなかったため、方針を変更し、労災の審査請求の手続を先行させることにしたのです。

労災については、管轄の労働基準監督署で申請し、それが認められなければ審査請求をすることができます。
この事件で争点となったのは、事故が起きた経緯と事故の内容でした。
労災が認められるためには、業務遂行性、業務起因性という要件を満たす必要があります。
つまり、業務遂行中に、業務に起因して発生した事故であることが要件となるわけです。
この事故が業務遂行中の事故であることは明らかですから、問題は、業務に起因するか否かということになります。
この点に関する労働基準監督署の認定は、「自招事故」であり、業務起因性がないというものでした。
そう認定した根拠は、加害者男性の言い分とその男性を接客していた女性店員の証言でした。
いわく、女性店員がスカーフを男性客の首に巻き付けて来たので、客がそれを振り払ったところ、足を捻ったのだというのです。
しかし、膝の十字靭帯損傷は足を捻った程度で生じるような怪我ではありません。
また、事件を目撃していた同僚が何人もおり、接客していた女性店員が男性客の振る舞いに困り、助けを求めたところを見ていたとのことだったので、その方々の証言を提出すれば、当然に労災と認定されるはずと判断し、その証拠を整えて審査請求を行いました。
ところが、労働基準監督署の判断は変わりませんでした。

正直驚いたのですが、そうなった以上、次の手続に移行せざるを得ません。
審査請求が却下されたことに対しては、労働審査会という上部機関に対する再審査請求という手続と行政訴訟という手続があります。
結論的には、再審査請求を選択したのですが、ここは正直悩ましいところです。
事案としては、当然に労災と認定されるべき事件だと確信していましたが、裁判の方が、その結論を得やすいものの、時間がかかりますし、費用の問題もありますので、ケースバイケースで判断することになります。
依頼者は歩行にも難儀している状況であり、生活も大変なため、まずは早期に結論が出るであろう再審査請求をということになりました。

再審査請求の手続では、事前に労基署に対する質問事項を送付しておくと、審査当日に、その回答を厚労省の職員が手続の中で、「朗読」するという段取りが取られます。
この事件の場合、「振り払っただけという被害者側の主張する行為で膝の十字靭帯損傷が起きるか否かについて医師に見解を求めたか」であるとか、「複数いた目撃証人に対する聞き取りを行わなかった理由」「加害者と同じ供述をしている女子店員の関係を検討したか」など、重要と思われる争点を示しつつ、それに関する労基署の調査の不十分さを浮き彫りにすべく質問を行いましたが、いずれについても、正面からの回答はありませんでした(正直、意味不明な回答もあったので、その点を質したかったのですが、なにせ、「朗読」をした担当者は、あくまで厚労省の人間なので、疑問点を尋ねても新しい答えは出てきません。まるで、決められたセリフしか言わないドラクエの村の門番みたいでした)。
ただ、審査会の手続では、審査委員との間で実質的に重要と思われる争点についてのやりとりを重ねることができました。
審査の時間も予定よりオーバーしましたし、追加の資料の指示もあったので、そうした準備を行った上で、意見書の提出を行ったのですが、それなりの手応えはあったように感じました。

現在は、再審査請求の結論が出るのをただ待つだけの段階ですが、コロナウイルスの影響もあり、少し時間がかかってしまうかもしれません。
もし、訴訟となれば、被告は国ということになり、相当なエネルギーを注がなくてはなりませんので、依頼者の負担を考えると、なんとかここで労災が認められればと思っています。

事件のことについては、いろいろと思うところもありますが、それについてはまたいずれ取り上げてみたいと思います。

2020年05月07日 > トピックス, 事件日記

事件日記~ある刑事事件での体験、そして刑事弁護、刑事司法について考えること

葵法律事務所

昨年からつい先日まで、当事務所で扱って来たある刑事事件のお話をしたいと思います。
その事件は、地裁で実刑判決が出たところから引き受けた窃盗の控訴、上告事件だったのですが、高裁でも実刑判決が出て、そこから最高裁への上告、さらには上告が棄却されてからの異議申立というかなり稀な手続にまで関わりました。
正直、途中から刑事弁護を引き受けるというのはやりにくい面があり、躊躇するところもあるのですが、その事件の場合、被告人には非常に気の毒な事情があって中途受任することとなりました。
「気の毒な事情」の中には、刑事弁護、刑事司法手続のあり方に関わる問題もあるように思いますので、取り上げてみたいと思います。

その事件は昨年春に地裁で実刑判決が出たのですが、その直後、被告人の内縁の妻の女性が事務所に相談に来ました。
そこで聞いた話は、俄かに信じ難いような内容を含んでいました。
まず、被告人は、家族のために働かなくてはならず、被疑者段階から、被疑者国選弁護人となった弁護士に示談交渉をとお願いしたそうですが、それにはまったく応じてもらえなかったというのです。
示談交渉すらしていなかったこともあってか、被疑者はそのまま起訴されるのですが、驚いたのは、国選弁護人のそれまでの接見回数と接見時間です。
被告人によると、弁護人は合計10回くらい接見に来たそうですが、毎回数分程度しか接見せず、すぐに帰ってしまうというのです。
そして、起訴となった頃に、これからはもうあまり来ないというようなことまで言われたそうです。
また、保釈申請をとお願いしたら、それも自分でやるようにと言われ、やむなく自分で申請したら保釈は認めてもらえなかったそうです。
その後、2度目の保釈申請はお願いしてなんとかやってもらえ、保釈許可決定はおりたのですが、判決前には、弁護人から「示談しなくても執行猶予になる」と言われていて、いざ判決期日に臨んだところ、実刑判決が出たのです。
また、判決の直前には、「もし万一実刑判決になっても保釈中なので家に帰れる」とも説明されたそうです。
しかし、そんなことはあるはずもなく、被告人は判決後、そのまま身柄拘束されます。
国選弁護人は、法廷で、「すぐに控訴するように」と助言したそうで、被告人もそれに従い、即日控訴の手続を取ったのですが、家族のために働く必要もあることから、すぐに家族を通じて再度の保釈申請をと要望したところ、「控訴したらもう弁護人ではない。すぐに保釈申請したいなら、私選受任となるので着手金を用意するように」と言われたそうです。
幼い子供を3人抱えている状況で、元々経済的に厳しいところへ持って来て、夫が働けないわけですから、どうしようもなくなって、当事務所に駆け込んで来られたのです。

いろいろと事情を聴いた結果、その弁護士の活動があまりにひどいと感じたので、結局、控訴審から弁護を引き受けることにしました。
保釈申請の準備のため一審における事件の経緯などを把握する必要があると思い、問題の弁護人に連絡をしたのですが、一切協力できないと断られました。
さらに、その直後、内縁の奥さんにその弁護士が連絡を入れ、事務所に呼びつけた上で、「控訴しても保釈なんか認められるはずはない。その弁護士は金目当てだから断った方がいい」と言い放ったそうです。
その弁護士の対応にあきれつつ、まずは保釈申請をしました。
一審の裁判所も、国選弁護人の弁護活動に疑問を持っていたのか、保釈はわりとあっさり認められました(ちなみに、保釈については、時間が経つと高裁での判断となりますが、それだと記録を読めていないため、さらに判断が遅くなるので、控訴後すぐに地裁と掛け合って、地裁に記録をとどめて判断してもらうことで、早期保釈を実現することができました)。
なお、保釈金については保釈支援協会を使っており、そのことについてはいろいろと思うところもあるのでまた別の機会に取り上げたいと思います。
その後の控訴審における弁護活動ですが、親族に協力をお願いして、被害者との示談を成立させるなどできる限りのことはやりました。
控訴審では、示談できたこともあって減刑はされたものの実刑判決は変えられなかったのですが、被告人も弁護活動の内容については納得してくれていると思います。
しかし、それだけに、被疑者段階から一審を担当した国選弁護人に対しては強い憤りを感じているとのことです。
確かに、被疑者、被告人にとっては担当する弁護士しか頼れる人がいないわけですから、唯一の頼みの綱である弁護人がなすべき弁護活動をやってくれなければ、不起訴、罰金となるべきものが起訴となり、執行猶予どまりのはずのものが実刑となるという、まさに天国と地獄の差となってしまうこともあるわけで、憤慨されるのも当然のことと思います。

実は、このような弁護人がいるという話はこれまでも耳にしたことがあります。
ただ、その背景には、国選弁護の費用が低すぎること、特に収入が不安定な若手弁護士にとっては、国選弁護で効率よく日当などの収入を得たいという動機が働いてしまうという現状があるように思います。
もちろん、個々の事件において手抜き弁護にあたるようなことがあってはいけないのですが、一方で国民の方々に知っておいてもらいたいこともあります。
私たちは刑事司法の一翼を担い、被疑者、被告人の権利を守り、また可能な限り被害回復、再犯を防ぐための説諭や環境調整にも努めているわけです。
しかし、刑事手続の現状を見るにつけ、この国の司法行政は、弁護人が負っている重い役割を軽視していると感じることがしばしばあることもまた事実です。
刑事司法の一翼を担う弁護士に対して、それに見合う報酬が支払われるようにならなければ、結果として司法に対する信頼が失われることになりかねません。
カルロス・ゴーンの問題もあり、刑事司法手続に対する国民の関心が高くなっていますが、多くの弁護士が、弁護士による弁護を受ける憲法上の権利を実践するという重い重責を低額の報酬で実践させられている、このおかしな現状を変えるべきではないかという視点、問題意識を共有していただければと思います。

2020年02月16日 > トピックス, 事件日記
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