事務所トピックス
葵法律事務所

去年の11月に、当事務所の弁護士が担当していた成年後見事件の被後見人が天寿を全うされました。
振り返れば、その事件は、身内の方からの依頼があったわけでもなく、被後見人本人とも全く面識がない中で、後見申立を行い、そのまま成年後見人に就任したという経緯でした。
日本が超高齢化社会となったことで、今後、このような事件が増えて行くことが予想されますので、その経過をお伝えしつつ、いろいろと考えたことを述べてみたいと思います。

ご本人は神奈川県内のアパートで暮らす独居の老人男性で、頼る親族もいない状況でした。
おそらくは認知機能や体力の衰えの影響で食事も十分に摂ることができなくなり、その後、なんとか地元の病院にはかかることができたものの、治療費に充てる預貯金は多少はあるけれど、それを下ろすことすらできない状況で、地元の地域包括支援センターの方からの法律相談を経て、後見手続を取ることになったのです。
調査をしてみると、兄妹姉妹が数人おられることはわかったのですが、いずれも遠方におられ、しかも高齢で、本人とは疎遠になっていることもあって、協力を申し出てくれる方はいませんでした。
役所の手続を使う方法もありますが、将来的なことも考えれば、何とか親族にお願いしてもらった方がいいと考え、静岡県内におられるご兄弟に、申立人になってもらうようお願いし、経済的なことも含め、一切ご迷惑はおかけしないと約束して、後見の申立にこぎつけました。
そんな経緯でしたので、申立までの費用は、すべて自腹でした。

その後、申立を経て、成年後見人に就任し、本人の預貯金を医療費に充てつつ、本人の落ち着き場所を探すための苦労が始まりました。
最初は、地元のグループホームに入ってもらいましたが、本人がまだ精神的に非常に不安定であったため、グループホームから、「これ以上は無理」と泣きつかれ、最初に入院した病院に逆戻りとなりました。
医師と話し合いましたが、自宅に戻るのは絶対にやめた方がいいとの助言もあり、まずは精神的なところを落ち着かせる必要があるということで、精神病院への入院を勧められました。
しかし、この方の場合、精神病院に入院となると、そのまま出て来られなくなるのではないか、出会ったばかりの後見人がそのような決断をしていいものかと悩みましたが、薬の調整で落ち着く可能性はあるという医師の助言を受けて、神奈川県内の精神病院への入院を決め、それと並行して、将来の落ち着き先となる老人ホームの確保にもあたりました。
結果は大成功で、精神病院での治療が効を奏して、本人の精神状態は飛躍的に落ち着き、昔の話を楽しそうに話されるくらいまで安定してきたのです。
そして、ちょうどその時期に運よく入所先の老人ホームを見つけることができました。

遠方であったため、老人ホームに入ってからは、あまりお会いする機会はなくなりましたが、施設側とは必要な衣類や補助栄養ドリンクなどの差し入れや必要に応じた治療、医療機関への通院のこと等で定期的に連絡を取り合って、本人が穏やかに生活できていることを確認しながら、後見業務を遂行しておりました。
去年11月に亡くなられたとの連絡を受けましたが、最初の受任時点の、ひどく衰弱され、混乱されていたところから、終の棲家で穏やかな日々を過ごして天寿を全うされるところまで関われたことは、本当に良い仕事ができたなと思いました。
そして、それはこの間に関わっていただいた福祉、医療の関係者のご尽力のおかげでもあるので、心から感謝申し上げたいと思っています。

ただ、本件の場合、本人が亡くなられた後に、後見人として、なかなかデリケートな業務が残っていました。
後見業務は、本人が亡くなられたところで終わりではなく、相続人に引き継いだところで終了となります。
ところが、本件の場合、元々、親族の協力が受けられなかったという経緯があり、しかも法定相続人にあたる5名の方はいずれも遠方にお住まいであり、かつ高齢であるため、その引き継ぎは容易ではないことは元々予想できておりました。
結局、本人が亡くなられて以降の手続のみならず、火葬場にも一人で行って遺骨の引き取りからその後の諸々の段取りもすべてこちらで行うことになりました(実際は、かなりの煩わしいところは事務局に負担をかけてしまったのですが)。
難しいのは、後見業務の一環として行える部分と相続人でないとできない部分があるため、相続人との連携ができていればいいのですが、そうでない場合は、大変な手間となってしまうところがあります。
そのため、まだ多少やるべきことは残っていますが、最後に施設でお会いした時、車いすに乗られて、にこにこと笑っておられた姿が思い出されますし、寄る辺なき独居のご老人が、最後に福祉的援助を受けながら、穏やかに暮らせる手助けができたことは、弁護士冥利に尽きるところでもありました。

超高齢化社会になり、しかも、勤労者世代が経済的にも不安定となりつつある日本の実状からすると、独居で老後の不安を抱えて暮らしておられる方も多いと思いますが、後見という制度はそのような方の老後を支えるための杖になれると思います。
また、いきなり要後見状態に陥ってしまうよりも、できることならば、お元気なうちに、任意後見契約を締結する等して、いつか来るかもしれないその日に備えておかれればなおいいのではないかとも思った次第です。

2022年04月01日 > トピックス, 事件日記
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