私たちが医療事故や交通事故等といった事件を扱ううえでは、責任論とは別に、被害者の方が受けた損害評価に関する損害論の検証や主張立証は非常に重要です。
いくら加害者に責任があると認定されても、被害に見合った損害額が認定されなければ、被害者の十分な納得にはつながらないわけであり、個々の被害の実状にもよりますが、損害算定の巧拙でもって実際に受け取る賠償額の高低に非常に大きな違いが生じることも決して稀ではないからです。
というわけで、今回はそのお話をしてみたいと思います。
損害算定の基本的なやり方は、経済的損害、精神的損害の個々の項目について、個別に算定し、それを積算していくというものです。
実際には、通称「赤い本」「青い本」と呼ばれる実務用書籍があり、そこで挙げられている項目について、表記された基準をもとに算出していくことになるので、シンプルな事例であれば、わりと短時間で算定は可能なのですが(実際に支出した治療費や交通費などの資料をまとめて行く作業はそれなりに大変ですが)、実際に扱っている事件では、その応用編という感じで頭を悩まされることが多くあります。
もっとも、「赤い本」「青い本」に従って算定を行って出てきた金額が、常識と乖離していると感じることも少なからずあるのです。
たとえば、中間利息の控除は、事案によっては非常に不合理だと感じることがあります。
中間利息の控除とは、死亡事故や後遺症が生じる事件で逸失利益等を計算する際に、将来得ることが見込める収入分の損害を現時点で先取りで受け取ることになるので、先取りでもらって運用することによって得る利息分を差し引くという理屈ですが、ちょっと前まではその利率は年5%でした(令和2年以降の事案では年3%になりました)。
しかし、もうかなり長い間、定期預金の金利でさえ年1%にも満たない雀の涙のレベルに抑え込まれていますし、今後も、3%を超えることなど当分の間あり得ないでしょうから、それを招来利息分として差し引くという理屈は、現実の経済実態とは大きく乖離したものといえるのです。
しかも、裁判所は、この中間利息の控除を複利計算で行うという方式を採用しているため、長期に及ぶ逸失利益の場合、被害者にとっての不利益はさらに大きくなります。
さらに、未成年、中でも非常に幼い子が被害者の事件では、およそあり得ないほど不合理な結果となります。
年5%の時代に扱った3歳の子の死亡事故で、18歳以降67歳まで年500万円を超える収入を得ることを前提にしても中間利息を控除した結果、被害者の逸失利益は5000万円を下回る金額にしかなりませんでしたが、生活費控除による減額以上に、中間利息の控除の実務基準が大きく影響して愕然としました。
こうした点については、裁判実務における認定の際に、制度均衡的な考慮が働いているのではないかとの指摘もありますし、少なくとも、長年に及ぶ保険実務との相互作用的な面が、先例を重視する傾向のある裁判所の認定に影響を与えている面があるという分析もあります。
しかし、被害者の立場で活動する立場から言わせてもらうと、先例に囚われず、原状回復とは何かを突き詰め、公平の原則に応じた柔軟な判断をしてもらいたいというのが、裁判所に対する切実な想いです。
裁判所の認定のあり方の問題もありますが、実際に事件を扱って保険会社の対応を目の当たりにすると、非常に憤りを感じることは決して少なくありません。
特に、医療過誤の領域では、責任論のレベルでも、平気で黒を白と言い放ち、医学的におよそあり得ないような不合理な主張や、カルテの記載にすら反するような事実主張を平然と行ってくること等はもはや日常茶飯事といっても過言ではありません。
保険会社の対応の理不尽さは損害算定の場面でも普通に見られます。
最近でも、損害算定のために過去の判例を調べていたところ、遷延的意識障害の事案における将来の介護費の算定の場面で、保険会社側は、「被害者が平均余命を生きる蓋然性は極めて低い」という主張を行っていたのですが、その判例では、保険会社に依頼された医師が、その主張に沿う意見書を作成していて、それが証拠として提出されていました。
最近、当事務所で扱っている症例でも、保険会社側の医師が、被害者を診もしないで、詐病だと言い放ったケースがあり、正直言って、その医者を名誉棄損で訴えてもいいのではと思ったりしているのですが、保険会社の利益のために、医師が被害者を貶め、二次被害をもたらすような意見を述べているのを見ると、本当に嫌な気持ちになりました。
とにかく、実際の事件では、そのような理不尽さに立ち向かって主張立証を尽くさなくてはならないわけで、やればやるほど弁護士の仕事はしんどいと思ったりするわけですが、損害算定の巧拙は被害者が正当な救済を受けられるか否かを大きく左右しますので、知恵を絞り、労力を惜しまず、立ち向かって行かなければならないと言い聞かせながら、日々業務に取り組んでいます。




















