事務所トピックス
葵法律事務所

以前、本ホームページにおいて研修医による医療事故について取り上げたことがありますが、その後も、立て続けに研修医による医療事故に遭遇していますので、改めて研修医の問題を取り上げてみようと思います。

前にも書いたことですが、どのような医療機関であれ、経験の浅い研修医に診療に関する重要な判断を単独でさせてはならないし、必ず上級医が指導、チェックしなくてはならないことは当然のことであるはずなのに、最近遭遇した症例でも上級医による指導、チェックがなされた形跡はありませんでした。
その内の1件の方でカルテを検討していた時のことなのですが、カルテの医師記録部分の、医師名の前のところに「J1」「J2」と書かれていました。
一瞬、サッカーのJリーグみたいだなと思ったのですが、調べてみると、研修医としての経験年数を意味する表記でした。
つまり、その病院における「J1」とは前期研修医の1年目という意味で、「J2」とは前期研修医の2年目を意味するものでした。
となると、Jはジュニアの意味なのでしょうか?
それはともかく、以前、取り上げた事件の場合は、後期研修医、つまり、すでに前期研修の2年の経験を経た3年目以降の医師による事故でしたが、今回の事故は、さらに経験の少ない1~2年目の新米医師の関与によって引き起こされたことになります。

ちなみに、この「J1」「J2」とカルテに表記されていた医療事故がどのようなものかというと、敗血症という診断がなされているにもかかわらず、バイタル監視のためのモニターも設置せず、その後の急変への対応が遅れてしまって患者さんが亡くなられてしまったという症例です。
医師にとっては基本的なことですが、敗血症では、感染により全身に多様な所見が現れますし、ショックなど、敗血症から生じる合併症によって死亡に至る危険性も高いことから、抗生剤を投与しつつ、呼吸、脈拍、体温などを厳重に管理しなくてはならないとされています。
したがって、モニターを装着し、血圧、脈拍、呼吸などを経時的に観察するとともに、尿量のチェックや動脈血液ガス分析などを頻回にチェックし、病態の変化に応じた適切な対処をしなくてはいけないわけです。
しかし、研修医レベルでは、知識としては持っていても、臨床現場でなすべきことが身についているとは限りませんし、容態の変化に対して臨機応変に対応するための経験値も、ベテランの医者に比べれば当然乏しいわけです。
ですので、研修医に任せきりにしたこと自体を、ただちに法的な過失と評価することは難しいかもしれませんが、事故を引き起こす重大な要因となっていることは十分にあり得るわけだし、本質的な問題だと感じるわけです。
ちなみに、先日、別の記事で触れた大腸癌の見落としの事故も、実は重要な局面に研修医が関わっていましたし、ほかにも研修医と思われる若手の医師に任せきりで急変に対処できなかったという症例があります。

話を戻しますが、このように立て続けに研修医絡みの症例を目にすると、やはり単なる巡り合わせとはちょっと考えづらくなります。
前の記事でも指摘しましたが、人件費削減のためなのか、あるいは人材の確保が大変だからなのか、本当のところはよくわかりませんが、医療現場における構造的な問題があるのではないかと思いますし、実際、そのようなことを指摘した臨床医の方の記事を目にしたこともあります。
誤解ないように申し上げておきますが、研修医が診療行為を行ってはいけないなどと言っているわけではありません。
若い医師が経験を積むことは大切だからです。
しかし、患者の命を預かっている以上、重要な判断を経験の乏しい研修中の医師に任せきりにしてはいけないのはこれまた当然のことで、上級医の指導、チェックを怠らない仕組みにしなくてはいけないと声を大にして言いたいところです。
私が目にしたその記事の中でも、研修医は使い勝手がいいということで、いろんな雑用をさせられているといったことが書かれていました。
医療現場の実状として、研修医を戦力として位置づけざるを得ない実態があるのかもしれませんが、そうした発想が当たり前になると、研修医にやらせていいこととそうでないこととの境界線がより曖昧になり、事故につながる危険がより高くなるのではないでしょうか。

それともう一つ思うことなのですが、患者を任せきりにされた研修医がミスを犯してその患者を死亡させたりすると、その研修医はその負い目をずっと感じ続けなくてはならなくなりますし、もしかすると、医師という仕事を続けられなくなるかもしれません。
以前、ある協力医からうかがったことですが、後輩の医師が、自分が犯した医療事故のことでメンタル的に病んでしまい、病院を辞めてしまったということもあったそうです。
まだ若く経験の浅い、将来のある医師にそうした負い目を感じさせないようにするためにも、研修医が単独で難しい判断を強いられない仕組み作りを徹底することはとても大切なことなのだと強く感じます。
あと、研修医の方々にとっても、判断に迷う時は、臆することなく上級医の指示を仰ぐ勇気や覚悟を持つことは本当に大切なことと思います。
病院の内部事情もあって、もしかしたら上下関係で撥ねつけられることがあったりするのかもしれませんが、患者の命を預かっているのだから経験豊富な医師の判断が必要だと踏ん張ることが、患者にとっても研修医の方にとっても良い結果につながるに違いないので、ぜひそうあってほしいと思うのです。

実は、研修医絡みの医療事故についてはまだいろいろとありますので、いずれまた取り上げてみたいと思います。

2018年05月05日 > トピックス, 医療事件日記
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