事務所トピックス
弁護士 折本 和司

芸能ニュースとかはあまり見ないのですが、しばしば取り上げられる芸能人の「不倫」絡みのニュース(正直、個人的にはこのようなワイドショー的な話題をニュースと呼ぶことにも抵抗がありますが)を見るにつけ、弁護士としては、その曖昧な言葉の使い方とその報じられ方に疑問や違和感を持つことがしばしばあります。

広末涼子さんの「不倫」の件が大きく取り上げ続けられることへの疑問もあったりしますので、ちょっと取り上げてみたいと思います。

 

そもそも、弁護士は、実務において「不倫」という言葉を普段使ったりはしません。

法律的には、離婚原因となったり慰謝料請求の根拠となるのは、「貞操義務」に違反すること、つまりは「不貞」(不貞行為、不貞関係)であり、それを「不倫」と表現することはないからです。

一方の「不倫」ですが、こちらは漠然とした意味合いで使われているところがあります。

本来、不倫とは、「倫理」に反するという意味から来ているはずなので、夫婦関係、男女関係に限らない用語ともいえるのでしょうが、現実には、「浮気」がいつの間にか「不倫」と言い換えられるようになったような印象があります。

「不倫は文化だ」といった芸能人がいましたが、そのあたりからよく使われるようになったのかもしれません。

 

しかし、芸能ニュースで使われる「不倫」と、法律実務における「不貞」には明らかにより大きな違いがあります。

というのは、夫婦関係が破綻した状況での男女関係は、法律実務においては「不貞にはあたらない」と評価されるのに対し、芸能ニュースを見ていると、そのようなことはお構いなしに、婚姻関係にある有名人が、別の異性と深い関係になったことが判明した時点で、「不倫」と表現してバッシングが開始されるからです。

ですが、メディアで取り上げられる「不倫」なるものが、実際には夫婦関係破綻後に生じたということで「不貞にあたらない」との評価を受けるならば民法上は違法ではないわけですが(当然ながら刑法上の犯罪でもありません)、実際の取り上げられ方は、そんな事情の違いなんてそっちのけになっており、今のワイドショー、ネット情報のかなりの部分は、法的に何ら違法でないか、その可能性があるものを、まるで悪事のように報じている印象で、正直、強烈な違和感を覚えます。

あとでも触れますが、いったん「不倫」と報じられた側のダメージの大きさは計り知れないからなおさらです。

もちろん、「婚姻関係中に他の異性と深い関係になることは倫理に反する」という価値観に基づくものだという反論もあるかもしれませんが、それは価値観の押し付けであり、それでもって公開の場所でつるし上げたり、個人情報をかき集めて垂れ流すことが正当化されることはあり得ないというのが私の意見です。

もちろん、法的に違法なものしかメディアが取り上げてはいけないとまでは言いませんが、仮に違法とまではいえないものを扱う場合の指標、メルクマールは、「多くの人に知ってもらうべき公益性があるか否か」そして、「相当高いレベルの内容の真実性」であるべきで、多くの場合、芸能人の「不倫」の報道にそもそも「公益性」なんてないでしょう。

ちょうど、広末さんの「不倫」は、ジャニーズの例の問題が取り沙汰されていたところに出て来たもので、それにより、ジャニーズの問題の扱いが相対的に小さくなっているように感じますが、両者は、問題の本質、公益性という点からして、およそ次元が異なりますし、その対比からしても、特に大手メディアの扱いの不均衡さは際立っていると感じます。

 

私が、芸能人のこの種の不倫問題を原則としてメディアが取り上げるべきでないと考えるもう一つの理由は、家庭内の問題について、玉石混交の情報で根掘り葉掘り穿り回すことで家族を含め、多くの人が傷ついてしまうことがあるからであり、その結果、取り返しのつかない事態となっても、「みんなでやっているせいもあって」誰も責任を取らないで済むという恐るべき現実があるからです。

まさに「横断歩道 みんなで渡ればなんとやら」状態ともいえます。

実際、寄ってたかってではない段階で起きたことですが、市川猿之助さんのご両親の死亡という非常に痛ましい最悪の結果については、あらためてメディアの影響の大きさ、恐ろしさを実感させるものです。

 

また、広末さんの報道を見ても、すでにいろんな話が出て来ています。

その中には、お子さんたちの情報も含まれていますし、夫婦関係が良好とは言えず、離婚の話が出たり、すでに別居に入っていたことは、広末さんの夫の側も認めています。

さらには、広末さんの夫の「不倫」や「暴力」に関する情報も流れています。

このあたりの真偽については不明なところもありますが、もし、すでに相当期間別居して「破綻」と評価される状況になっていれば、「不貞」とはならない可能性が高いうえ、仮に広末さんが夫の不貞や暴力に苦しんでいて、不倫相手とされる男性が、苦しんでいる彼女を支えてあげようとしていたというのであれば、そして子供たちもその男性を慕っていて一定の関係性が構築されていたような場合には全然見方が変わって来ることになります。

もちろん、私は、それが真実だと言っているわけではなく、そうした様々な可能性のある、しかも極めてナイーブかつドメスティックな問題に、勝手に色づけをして「みんなで渡れば~」の体でバッシングしているという現実こそが異常であり、間違っているのではないかと申し上げたいのです。

実際、弁護士として離婚事件に取り組んでいると、夫婦関係の破綻は、不貞や暴力だけでなく、モラハラであるとか、性の不一致、さらには配偶者の親との不和、子育ての方針の違いなど、本当にいろんな事情によって起きており、破綻に至る本当の経緯はおよそ外からはわからないことの方が多いのが実態です。

それでもって、偏った情報で決めつけられ、さらに憶測で非難されたことで本人や周囲が受けた被害を後になって回復することは不可能といっても過言ではありません。

 

それと、広末さんに限らず、「不倫」した芸能人をバッシングする記事やコメントを見ていると、「幼い子供がいるのに」といったものも少なくありませんが、「子供がいる」ということと「どちらに非があるか」ということは別のことです。

この点、実際の芸能ニュースやネットの記事、コメントなどを見ると、「一番の被害者は子供たちだ」という論調もありますが、そもそもメディアが大騒ぎすることで子供たちがより傷つくわけだから、そのような発言自体、偽善であり、詭弁であると感じます。

 

で、この問題に対する私の結論ですが、テレビもネットも週刊誌も、芸能人の不倫ネタを扱うこと自体、すぐにやめるべきだと思います。

夫婦関係がうまく行かなくなり、他の異性との男女関係に陥ったり、離婚したりということは、ごく普通に起きることですし、犯罪でも何でもないわけです。

それを、当事者でもなく、家庭内のことをよく知りもしない人間が、偏った情報や憶測でもって、メディアやネットで一方的に批判するなんて、本当に余計なお世話だし、そちらの方が犯罪的とすらいえなくもありません。

実際、もし、今度の広末さんの件が、夫婦関係破綻後であるとか、あるいは破綻の原因が夫の不貞や暴力などの何らかの違法行為によるものだったとしたら、広末さんのCMや映画出演などの仕事を失わせるきっかけとなった一連の報道は、違法な「業務妨害」と評価されてもおかしくないのではとすら思うのですが、もしそう評価された場合、生じた莫大な損害についてはいったい誰が責任を取るのでしょうか。

コンプラ社会と言われるようになって久しいですが、この芸能スキャンダルの領域においては、「コンプライアンス」が全然守られていないように感じます。

付言すると、テレビや文春や写真週刊誌等で取り上げることの弊害は別の意味でも極めて大きいように思います。

仮にネットで誰かが個人情報を暴露して誹謗した場合には名誉棄損が容易に成立するのに、先行してメディアが取り上げてしまっている場合、その後のネット記事は事実上不問になってしまうからです(実際、ネットのいわゆる「まとめ記事」の類はあちこちの既出の情報を引用するだけのものが多いでしょうから、なおさらです)。

 

メディア関係者は、いい加減目を覚まして、「視聴者が見たがるであろうもの」を追っかけまわすのではなく、メディアの責任、影響力の大きさを自覚し、本当に扱うべき公益性の高い事件を丁寧に掘り下げる姿勢に立ち戻るべきです。

そして、そのためには、視聴者側の意識改革の方がより大切で、このような興味本位で無責任な情報には背を向けて、それを扱うメディアやネットで情報を垂れ流す側に対して、それを非難するなど断固たる姿勢を持つことこそが必要なのだと強く思います。

2023年07月11日 > トピックス, 日々雑感
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