事務所トピックス
葵法律事務所

これまでにも、個別の医療事故の中で何度か取り上げたことがありますが、今日は研修医による医療過誤の問題について、あらためて正面から取り上げてみたいと思います。

なぜ研修医による医療事故について正面から取り上げることにしたかと申しますと、それは、ここのところで当事務所で扱っている複数の医療事故、あるいは比較的最近解決した医療事故を分析してみると、研修医による医療事故の割合が非常に高いということにあらためて気づいたからです。

たとえば、現在、当事務所で扱っている医療事故で、訴訟になっている症例は、6件ほどあり、ここ1年余りの間に解決した医療事故が4件(歯科医や一般開業医の事件を除きます)、さらには提訴準備中の案件が2件ほどありますが、このうち、なんと半数が研修医のミスが絡んだ医療事故なのです。
ほかにも現在調査中もしくは示談交渉中の症例もありますので、厳密には半数よりは下回りますが、一方、上の12件のうちには医療事故といっても、介護あるいは入浴がらみの事故が2件含まれていますので、総合病院における医療事故に関していえば、実感としては、研修医のミスによる事故の比率が非常に高い印象です。
あくまで当事務所だけのことではありますが、他の弁護士からも同じような話を聞くこともありますから、たまたまということではないように感じますし、以前と比べても増加は顕著ですので明らかにそうした傾向が強くなっているのだと思います。

当事務所でここの所扱った研修医による医療事故をさらに分析してみますと、ある種の傾向、特徴があります。

その一つが、非常に初歩的なミスが多いということです。
たとえば、使ってはいけない薬を誤って投与したというものですが、現在訴訟中の事件では、敗血症の患者について血液培養検査を行って起因菌が判明したにもかかわらず、その起因菌には無効とされる薬を選択して投与し、その後の感受性テストで最初の薬が効かないことがわかったのに、またもや誤った薬を投与して、患者が死亡するに至りました。
また、最も多いのが、基本的な手技を間違ってしまうというものです。
これはたまたまなのかもしれませんが、当事務所で扱っている症例についていえば、4件が穿刺、つまり針を刺すという手技に関するものです。
具体的には、中心静脈カテーテルが2件、腰椎穿刺が1件、肝生検が1件ですが、中心静脈カテーテルの2件と肝生検は、いずれも動脈誤穿刺で出血多量となって患者は亡くなられていますし、腰椎穿刺の症例も、患者に重篤な後遺症が残っています。
また、この4件のうち3件は、合計の穿刺回数が、6回ないし10回に及んでいます(肝生検は途中でベテランの医師に代わっていますが、ほかはすべて研修医が終わりまでやっています)。
ほかにも、これは少し前ですが、重篤な急性腹症の事案なのに、対応した研修医がレントゲンも撮らず、3歳の子供を急性胃腸炎と診断して帰宅させたら、その夜、イレウスで急変して死亡したという症例もあり、これは研修医による明らかな誤診でした。

もう一点、研修医の事故を分析すると、看過し難い特徴があると感じます。
それは、いずれの事故についても、指導医がチェックした様子がまったくなく、ほぼノータッチで任せきりにしてしまっているのではないかと思われるということです。
いうまでもないことですが、研修医は、経験が浅く、基本的な手技にしても、薬や治療方針の選択にしても、デリケートな症例に関する診断にしても、必ずしも的確に行えるわけではありません。
ですから、場面場面で、指導医が適宜助言、指導をすることは必須といえるわけです。
しかし、上記の症例で、指導医が、途中で関与した症例は1件しかありませんでした(もっともその症例も、経過観察では完全に研修医任せで、結局患者は出血性ショックで亡くなりました)。
普通に考えて、中心静脈カテーテルにしても、腰椎穿刺にしても、7回とか10回もの回数穿刺を繰り返せば、動脈などに致命的な損傷をもたらす危険があります。
にもかかわらず、指導医が途中で交代せず、そのまま最後まで研修医に穿刺を繰り返させるというのは、もしその場に指導医がいたのであればあり得ないことで、研修医のミスというよりは、指導医のミスというしかありませんし、もっといえば、ミスというより、未必の故意なのではないかとさえ思えてきます。
実際、協力医の方とお話をすると、たとえば、電子カルテでも指導医が必ずチェックを入れるような仕組みになっており、重要な医療行為については、常に指導医がそばでチェックしながら行わせるようにしているそうです。
ところが、誤診で3歳児を死なせたケースでも、複数回の誤穿刺のケースでも、抗菌薬の選択を誤ったケースでも、指導医がその過程に関与した形跡はまったく見られませんでした。

前述した抗菌薬の誤投与の症例では、こんな信じられないことも起きています。
そのケースは黄色ブドウ球菌感染での敗血症だったのですが、血液培養検査と併せて実施される感受性テストでどの抗菌薬が効くかを調べるのですが、そのテストの結果が出た時点で、研修医は、感受性テストの判定の対象となっていない抗菌薬であるPIPCという薬を選択して投与する(そしてそれが間違っている)というミスを犯しているのですが、どうやら感受性テストで感受性ありと判定されたMPIPCと同じものだと勘違いしたためだというのです。
命に関わる場面で、笑い話にもならないような初歩的なミスを犯しているわけですが、このケースで指導医が選択に関与したとは到底考えられません。
とにかく、研修医の医療行為を指導医がまともに監督していないとしか思えないような症例ばかりなのです。

長くなるので、Part2に続きます。

2024年02月16日 > トピックス, 医療事件日記
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