
高齢化社会となり、周りでも白内障手術をやるとかやったとかいう話を耳にすることが増えてきました。
また、昔と違って、手術自体も比較的簡単にできるようになってハードルが下がっているということもあるのかもしれません。
そんな感じで身近で気軽な手術というイメージがもたれるようになった白内障手術ですが、術後に起きることのある感染性眼内炎は、対処が遅れると失明してしまうこともある決して甘く見てはならない合併症といえます(ちなみに、「合併症」という言葉を不可抗力であり、医療側に責任はないというニュアンスで使われる医師もおられますが、それは間違っています。そのことはまた何処かで述べたいと思います)。
この術後の感染性眼内炎に関する事件を立て続けに相談を受け、受任することになりましたので、この病気のことについてちょっと取り上げてみます。
白内障手術は、白内障となった患者の眼内レンズを取り換えるという手術ですが、術後に感染症となるリスクが付いて回る治療でもあります。
それは主には眼球付近の常在菌が繁殖してしまい、感染性の眼内炎を引き起こすという機序が働くからです。
他にも、医療機器や手術室内の衛生状態、さらには術後の感染対策の不備など、様々な要因によって感染性眼内炎が起きる可能性があります。
実際、当事務所で引き受けた2件のうち、1件は常在菌の繁殖によって引き起こされたものでしたが、もう1件は手術室内の衛生状態が悪く、真菌(つまりはカビ菌ですが)が繁殖して引き起こされたものでした。
いずれにしても、白内障手術の実施の際には、術後の感染性眼内炎発祥のリスクを考慮して、術前から抗菌薬が投与され、術後の抗菌点眼薬等の投与が行われるのが通常です。
しかし、起因菌は様々で、抗菌薬が効かないこともありますし、対処が遅れると失明のリスクもあるので、むしろ術後の感染兆候を見逃さず、速やかに医療対応がなされることの方が重要です。
真菌での感染の事件は、失明には至らなかったものの、手術室内が不衛生で真菌が繁殖していた事案であり、同時期に手術を受けたほかの患者も同様に感染していたそうで、経緯からして過失は明らかだし、論外といっても過言ではありません。
術前に投与される抗菌薬は、一般的な常在菌をターゲットにしており、真菌には効きませんので、当然感染性眼内炎の発症のリスクは高くなりますし、感染後の対応も難しくなります。
現に、真菌で感染した患者については、複数回の手術が実施され、そのため、失明こそなかったものの、乱視や羞明がひどくなるという障害が残りました。
患者にとっては、手術室が汚染していること等わかるはずもなく、非常に不運なケースともいえます。
もう1件の術後感染性眼内炎のケースは、残念ながら失明という最悪の結果になりました。
こちらの方は起因菌からして常在菌によるものと見られますが、発見が遅れたのは白内障手術後に別の病院に入院していたためでした(本来であればすぐに対処してもらえるはずでよかったとなるところ、結果は皮肉にも逆でした)。
術後の感染性眼内炎の発症の確率が最も高いのは、術後3日から10日くらいの間といわれていますが、この患者の場合は、手術から2日後に別の病院に、別の病気で検査入院となっていますので、時期的にぴったり当てはまります。
もちろん、患者側は入院時に白内障手術直後であることは病院側に伝えています。
しかし、その日から6日経ってがんの検査の結果を聞きに家族が行ったところ、「癌は見つからなかったが、目が腫れているので、眼科に行くように」とだけ指示されます。
家族が驚いて本人を最初に手術をやった眼科に行ったところ、医師も驚き、すぐ大学病院へと紹介され、緊急手術となりますが、すでに手遅れで患者は失明となりました。
あとで保全したカルテによると、目の腫れや痛みなどの症状は入院から2日後には確認されていたのですが、医師も看護師もその重大性に気づかず、そこからさらに3日、病院に留め置かれ、何の治療もされなかったため、失明に至ってしまったわけです。
ちょうどコロナの時期で、家族が面会に行けなかったという不運もあるのですが、家族が状況確認の連絡を入れても、看護師からは「大丈夫」といわれていたそうで、医師、看護師とも、術後の感染性眼内炎のことを知識としても知らなかった可能性すらあります。
感染症の事案はいろいろとありますが、白内障手術が気軽に受けられるようになり、医療側が入院を続けて経過を見るという対応をしなくなった今の医療状況ですので、眼痛や腫れなどの感染徴候が現れたら、すぐに眼科に行くことが必須といえるでしょう。