事務所トピックス
弁護士 折本 和司

私が子供の頃のことですが、当時、広陵高校に宇根という投手がいて、甲子園で大活躍しました(確か、準優勝したと思います)。

それからしばらくすると、今度は佐伯という投手が出てきて彼も甲子園で活躍します。

佐伯投手の名前は私と同じ和司なのですごく親近感を覚えたものです。

後に佐伯投手は広島カープに入団し、1975年には三本柱の一人としてカープの初優勝に貢献していますので、なおさら記憶に残っています。

その後、広陵高校は全国的に有名な強豪校になったわけですが、今その広陵高校で大変な不祥事が起きており、大きな社会問題になっています。

特に、今の時代は良くも悪くもインターネットで情報が瞬く間に拡散しますので、広陵高校や高野連の対応に不可解な点があったこともあり、騒動は収まるばかりか憶測的な情報の拡散もあって、事態の収拾が図れない状況が続いています。

しかし、知れば知るほどこの問題の根は深いように思えますし、複雑に利害が絡み合っており、立場によって捉え方が異なってくるところもある問題ですので、広島出身の元野球少年(の弁護士)としてこの問題を取り上げ、考察してみたいと思います。

 

まず、不祥事が大きな社会問題となった時点で広陵高校はSNSの被害者であるがごとき言い訳をして出場辞退を発表しましたが、それは本質から目を逸らすための弁解にしか聞こえず、危機管理としては非常に拙い対応だと感じました。

辞退直後の保護者会で誰からも質問が出なかったとのことですが、普通であれば今回の問題で子を預ける親が学校側に問いを投げかけないはずはないわけで、にもかかわらず、質問さえ出ないということ自体、かえって問題の闇の深さ、気持ち悪さを感じさせます。

 

今回の発端となった件では、被害者が述べている事実と高校側の高野連に対する報告に大きな食い違いがありますので、いったい何が起きていたのか、まず何よりもその点について真実が明らかにされなくてはなりません。

被害者の主張どおりであれば、寮の中で明らかに許容範囲を超えた犯罪的行為があったことになり、しかも野球部の指導者や学校側が事件を隠蔽もしくは矮小化したことになりますから、ことは極めて重大といえます。

この点については、被害者側からネット上に流出したと思われる学校作成の報告書なるものがあり、この報告書の評価が重要なポイントになるのではないかと思います。

学校側も、被害者側に報告書を渡したことは認めていますので、もしネット上に流出した報告書が本物ということであれば、被害者側の言い分を否定する学校側の主張には重大な疑義が生じます。

ネット上に流出した報告書を読んでみたところ、黒塗り部分はあるものの、中身を見ると事実の記載のされ方に特徴があります。

それは聞き取った事実経過の記述の箇所で、「した」という表現と「された」という表現が使い分けられて記載されているという点で、その違いには大きな意味があるように感じます。

なぜなら、「した」という表現は加害者側から聞き取った事実、「された」という表現は被害者の主張事実と読むのが自然だからです。

具体的に見ると、「した」という記述は、たとえば、「蹴り出した」「次々と手を出した」「ビンタもした」等、執拗な暴力が繰り返されたことを示すものとなっており、全体としては被害者の主張に近い内容になっています。

実際の文章では、「した」と「された」が混在して一体化した部分も多いので、学校側も被害者の言い分が正しいと評価したのではないかとの印象もありますし、暴力に関わった生徒の人数も8人とか9人が関わっていたと書かれており、こちらについても被害者側の言い分に近くなっています。

仮にこの報告書が本物ということであれば、加害生徒の中に、被害者の言い分を認めた人物がおり(しかも複数いそうです)、それを学校側が確認していることになるので、となるとその後の学校側の対応には重大な疑問が生じます。

加害生徒から聞き取ったうえで作成した報告書を被害者側に交付しながら、それと明らかに異なる、事態を矮小化した内容の報告を高野連に提出したということになるからです。

もしそうであれば、加害生徒の違法行為以上に、事実を矮小化し、被害生徒を救済せず、高野連に虚偽報告をするという学校側の姿勢こそが極めて重大な問題としてクローズアップされなくてはなりません。

 

現在、学校側は、表向き、監督を交代させつつ、第三者による調査を実施すると発表していますが、「第三者」による調査とは、弁護士会などの、学校の影響を受けない公正中立な第三者が主導する形での「第三者委員会」でなくては意味がありません(この手の不祥事でいつも問題になりますが、もし広陵高校がいうところの第三者が形ばかりのものであれば、事態の鎮静化どころか、裏目に出ることは避けられないように思います)。

また、第三者委員会による調査、検証の対象は、表に出た個々の事件のみでは不十分です。

今回の経過を見ていると、本件以前からの悪しき伝統のような実態があったのではと指摘されていますので、そうした背景事情も調査対象に含まれなくてはなりませんし(実際、過去の暴力案件の情報も出ていますし、本件を機に注目された広陵高校出身の金本知憲氏の著書でもには、同様のリンチのようなものを受けていた旨の記述がありますから、当然メスを入れる必要があります)、事件発覚後の指導者や学校側の対応の適否も調査の対象とされなくてはなりません。

 

この点、辞退の際の校長の発言やその後の対応をみていると、時間稼ぎをして嵐が過ぎるのを待っているようにも見えますが、問題の先送り、中途半端な対応は広陵高校にとって学校自体の存続すら危ぶまれる事態にすらなりかねません。

なぜなら、高校野球の全国大会は毎年春と夏に開催されるわけで、そのたびごとにこの問題が蒸し返されることは避けられないからです。

もっとも、広陵高校にとってのトータルな利益と現在の上層部、指導者たちの利益は必ずしも一致しない可能性があるので、この先もどう進むかは予断を許しませんが、大局的な見地で事件の背景も含めた真相が徹底的に明らかにされる必要があります(それができずに衰退した野球名門校の例もあります)。

もし、その結果、一部で言われているように、この問題が偶発的な事象でなく、部内、寮内で繰り返されてきた悪しき伝統ということであれば、指導者に対する厳重な処分はもちろん、野球部の休部や廃部も当然視野に入れざるを得ないでしょうが、徹底した真相解明ととことん膿を出し切るという覚悟を持って事態に臨むことが、広陵高校にとって唯一の再生への道であり、まさに「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」なのだと思います。

長くなりましたので、Part2に続きます。

2025年08月30日 > トピックス, 日々雑感
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