事務所トピックス

医療事件日記~医療事故の院内調査報告書の問題点について

葵法律事務所

医療事故の中でも、死亡事故に関しては、平成27年に始まった医療事故調査支援センター(医療事故調)による調査の手続が利用できることになっています。
ただ、難点ともいえるのですが、手順としては、いきなり医療事故調による調査となるわけではなく、まずは事故を起こした医療機関内での調査(院内調査)が先行されることになります。
この制度が新たに立ち上がる時、死亡事故に限定することもさることながら、調査の対象とするか否かは医療機関側の判断に委ねられ、さらに先行される院内調査について、果たして調査の公正性が担保されるのかといったあたりも議論になったところです(他にも問題点はいろいろと指摘されています)。
実際、過去に当事務所で経験した症例でも、院内調査がかなり恣意的で不公正な内容だったということもありました。
ところが、また最近になって当事務所で相談を受けた症例で、以前扱ったものと非常によく似た内容の院内調査報告書を読みましたので、新たな疑問を感じたこともあり、あらためて、院内調査報告の問題性について述べたいと思います。

今回の症例は、コロナ感染で入院した高齢の女性に対し、中心静脈カテーテル(CV)挿入を試みた際に、誤って主要動脈を損傷し、対処が遅れて亡くなられたというものでした。
ところが、病院側は、当初、死因について、「コロナ感染による感染症の増悪」によるものと説明し、死亡診断書にもそのように記載されたのです(典型的な医療事故なのに、都合よくコロナ関連死とされることにも驚きますし、逆に、コロナ関連死とされる中には、医療過誤が結構紛れ込んでいるのではないかとの疑念さえ湧きますが)。
しかし、遺族の希望による画像診断を経て、解剖が実施され、「出血性ショック」による死亡であることが明らかとなり、院内調査が実施されることになったのです。
ご遺族は、その結果を記した院内報告書を手にして当事務所に来られたのですが、内容を一読して、奇妙な既視感(デジャブ)を覚えたのです。
目にしたその報告書は、形式的にも、また論旨にしても、以前当事務所で扱った別件の院内調査報告書と酷似していました。

何よりも驚いたのは、病院側が検討事項を自ら設定して、それに応じた記述がなされているのですが、この検討事項なるものが、「説明の妥当性」とか「CV挿入の妥当性」といった記載ばかりで、肝心かなめの「事故がなぜ起きたのか」という観点からの検証に向けた設問になっていないことでした。
そのため、出血性ショックで亡くなったこと自体の記載はあるものの、なぜ主要血管を損傷したのかの具体的な検証の記述もなく、また、血管損傷が即死亡につながるわけではありませんから、血管損傷後の経過を追って患者を救命できなかった要因についての検証の記述もなかったのです。
これでは一体何のための調査なのか、意味不明というほかありません。
そして、私たちが二重に驚いたのは、設定された検討事項の内容が、前に目にした報告書と瓜二つだったことです。
前に目にした報告書でも、説明の妥当性を複数回問うような内容でしたし、やはり「事故がなぜ起きたのか」「なぜ死亡という結果が生じたのか」という観点からの設問はなく、設問がそのような設定になっているため、それに対する具体的な記述も、やはり事故の真相からはほど遠い内容でしたが、ここまで似通っているというのは偶然の一致とは考えにくいのではないかと感じたのです。

医療事故調査制度が立ち上がる時に、大きな議論となったのは、医療事故調査が医療側の責任追及につながるものとなっていいかどうかという点でしたが、まさに、この院内調査報告書の曖昧さは、医療側の責任追及につながるような記載を極力避けようとしているように思えます。
しかし、医療事故の中には、間違いなく、不適切な医療行為によって起きた、それさえなければ死亡という結果を避けられたはずの症例が存在するわけで、事故を教訓にし、再発防止につなげるという制度の目的からすれば、そのような場合に医療行為の問題点を指摘しない報告書は有害無益といっても過言ではありません。
調査報告書がその点を明確に指摘する内容であることは同種事故を防ぐためには必要不可欠であり、その結果が、時に責任追及につながることがあるとしても、やむを得ないことだし、逆にそれが明確に記載されることこそが、医療に対する信頼を高めることになるのではないでしょうか。

私たちが目にした2つの報告書は、単なる偶然の一致とは考えにくいほど類似していましたが、医療事故調がそのような指導をしているのか、あるいは医療機関同士が情報交換をしてそのような結果となったのかはわかりません。
実際、この二つの医療機関はまったく無関係で、距離的にも1000キロは離れた医療機関ですから、どこかに院内調査対策マニュアルのようなものが存在するのかもしれないと思ったりもします。
ただ、いずれにしても、医療事故調査制度は、ある程度の運用期間を経たところですので、当初から指摘された問題点の検証も含め、そろそろ見直されるべき時期に来ているのではないでしょうか。
この制度の下で、すでに医療領域ごとに症例分析などがなされており、それはそれで非常に有意義だと感じるところもありますが(実際、CV挿入の事故に関する分析がなされたものも読みましたが、非常に勉強になる内容でした)、不備については改善して、より実効性のある制度にブラッシュアップして行くべきだと思います。

2022年08月29日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~肝生検後に生後11か月の乳児が出血死した医療事故が終了したことに関するご報告・序

葵法律事務所

平成29年に横浜地方裁判所に提訴した、乳児に対する肝生検実施後の死亡事故の医療訴訟が、本年3月18日に和解により解決いたしました。
まず、初めに申し上げたいことは、この解決は、ご遺族であり、裁判の原告となられたご両親の、真相解明を求める諦めない強い気持ちがなければ成し遂げられなかったということであり、亡くなった莉奈ちゃんのために頑張られたご両親に対しては、心から敬意を表したいと思います。
それと同時に、この事件では本当に多くの方々にご協力いただきました。
特に、勇気ある告発をしていただいた被告病院の事故当時の医療者や、真相解明のために粘り強く捜査を続けていただいた警察関係者、そして、それぞれの専門的な知見を踏まえて鑑定意見書を作成いただいた協力医の方々のご協力がなければ、ここまでの真相解明には至らなかったに違いありません。
本当に心から感謝申し上げたいと思っています。

ところで、この事件が和解により解決してからすでに2ヶ月以上が経過しています。
医療のことのみならず、この事故から学ぶべきことはあまりに多岐に及んでいますので、どこかでまとめて公表して行かなくてはならないという使命感もありますが、まだ十分な準備が出来ていません。
それと、本件に関していえば、やはり何といっても、お世話になった医療関係者の方々にご報告に伺うことを優先したいということもあり、また、この事件ではあまりにいろんなことがありすぎて、総括して記事にするにしても、内容を吟味、推敲する時間がもう少し必要だということもあります。
ですので、ホームページに掲載するのはもう少し先になると思います。
ただ、念のため、申し上げたいことは、今後何らかの形で公表するについては、本件事故に関わった医師や病院に対して、あれこれ非をあげつらうことは本意ではありません。
もちろん、事故や訴訟経過を検証する上で、病院側の対応等の問題点を指摘せざるを得ない場面はあると思いますが、それはあくまでも、医療事故の再発を防ぐ、医療現場を良くする、医療事故の解決のあり方を変えていく、そうしたことのために教訓とすべきものは何かという視点、問題意識に基づくものにしたいと考えています。

以上、報告の予告みたいになっていますが、もう一つお伝えしたいことがあります。
ご遺族は、今後、事故のことについて、莉奈ちゃんの死を無駄にしないための手記を書きたいというお気持ちを持っておられますが、そんな意を汲んでいただき、5月26日付の毎日新聞神奈川版に、ご遺族の4216日の闘いを振り返る内容の記事が掲載されました。
インターネットのニュースサイトでもかなりの反響があったようで、取材いただいた毎日新聞の記者の方にも御礼申し上げたいと思っています。
とても良い記事でしたので、記事のタイトル、リンクを貼っておきます。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4dc7e29e470a10228e5a5cdcf2d1183b8730a49e

ちょっと横道に逸れますが、記事を読んでふと思ったことは、日々目にするニュースでは、どうしても速報性にこだわらざるを得ない部分があり、それはそれで必要だとは思うのですが、一方で、速報性よりも、今回の記事のように、一つ一つの事象を時間をかけて取材し、掘り下げた上で記事にすることも大切のではないかということでした。

では、近い時期に、この事件から得るべき教訓という趣旨の記事をホームページ上に掲載させていただくつもりですので、医療に携わる方、法律関係者を含め、関心を持っていただける方は、ぜひご一読ください。

2022年05月26日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~感染症に対する抗菌薬の選択を2度にわたって誤って患者を死亡させた医療事故の提訴のご報告

葵法律事務所

神奈川県内のある総合病院において、入院中の患者に発熱や嘔吐などの症状が出て感染症が疑われる状況となった時点で、細菌培養検査を行って以降の抗菌薬の選択を2度にわたって誤り、その結果、患者が敗血症性ショックで死亡したという事故について、このたび横浜地方裁判所に提訴いたしましたので、そのことについてご報告させていただきます。
感染症の診断、治療については、前にも本ホームページで取り上げていますが、実は当事務所の弁護士が受任している感染症絡みの事件は複数ありますし、感染症対応の重要性は今後さらに高まって行くと思われます。
ですので、提訴した事件のことだけでなく、あるべき感染症対応といったことについても触れてまいりたいと思います。

まず、感染症への対応に関する一般的な知見ですが、感染症の兆候が現れた場合には、まず血液培養検査により菌の同定を行い、さらに検出された菌にどの抗菌薬が効くかを確かめる感受性テストがあわせて実施されることになります。
感受性テストの結果の一覧で、Rと書かれていれば抵抗性ありでその系統の薬は効かない、Sと書かれていれば感受性ありでその系統の薬は効くということになるわけです。
ただ、感染症は、対処が遅れて重篤化すると生命予後に直結しますので、臨床現場では、菌の同定前の段階でも、症状や病歴などから推定して一定の抗菌薬を投与するというエンピリック(経験的)治療が実施されます。
そして、その後、感受性テストの結果を踏まえてピンポイントに効く抗菌薬に切り替えていく(デ・エスカレーション治療)という手順が採られるのが通常です。
また、抗菌薬の投与方法についてですが、抗菌薬の種類によって、一定以上の血中濃度で菌に作用する時間が長いことが高い効果を発揮させるために必要となる「時間依存性抗菌薬」と、薬の濃度が高いことが高い効果を発揮させるために必要となる「濃度依存性抗菌薬」の違いがあるので、抗菌薬によるそうした効果の違いを踏まえて、量と頻度にも留意して投与して行く必要があるとされています。
もちろん、抗菌薬の種類も増え、多剤耐性菌も増えているという、以前にはなかった深刻な状況に立ち向かわなければならない医療者も本当に大変だとは思うのですが、患者の立場からすれば、感染症の起因菌に対して適切な対処をしてもらえなければ死に直結してします場合もありますので、感染症への対処に関する医療者の知識や経験は非常に重要な課題ともいえるわけです。

今回提訴した医療事故の内容ですが、抗菌薬の選択を明らかに誤っており、過失は明白と捉えています。
経過を見ると、感染症の兆候が現れた時点で、タイミングとしてはやや遅いものの、起因菌の同定のための培養検査と感受性テストが実施されており、その一方、兆候が現れた時点で、おそらくエンピリック治療という趣旨なのでしょうが、セファゾリン(CEZ)という抗菌薬が投与されています。
この薬は、グラム陽性球菌が起因菌の場合には第一選択薬とされる抗菌薬ですが、培養検査開始の翌日の迅速診断で、起因菌の種類はグラム陽性球菌と特定されていますので、用量や頻度は不十分ながら、抗菌薬の選択としては正解だったのです。
ところが、この迅速診断の結果が出た時点で、医師はなぜか第一選択薬であるセファゾリンの投与を止め、クラビット(LVFX)という抗菌薬に切り替えるという判断をしているのですが、この薬はグラム陽性球菌、特にグラム陽性球菌の中でも、発生頻度が高く、重篤化しやすいとされる黄色ブドウ球菌が耐性を持つとされる薬でした。
協力いただいた感染症の専門医も、この選択は「明らかな過ち」と断定しておられるのですが、感受性テストでも、この薬については「R」、つまり効かないとの結果が出ています。
ただ、この医師のミスは、それにとどまりませんでした。
培養検査の結果で、本件の起因菌がさらに具体的に特定され、グラム陽性球菌のカテゴリーの中でも、頻度が高く、生命予後に影響するとされる黄色ブドウ球菌であることが判明します。
そして、感受性テストの結果でも、クラビットが効かないことが明らかになったことから、医師は、この時点で再度抗菌薬を変更するのですが、ここで、またもや「別の誤った抗菌薬」が選択されます。
この時点で選択された抗菌薬はピペラシリン(PIPC)というものですが、この薬は黄色ブドウ球菌に活性がないとされており、やはりあり得ない選択でした。
結局、患者さんは2度目の抗菌薬の変更の翌々日未明に急変し、その後亡くなられました。

本件で私たちが特に問題だと考えている点は2つあります。
まず、この2度にわたる抗菌薬の選択ミスを犯した医師は、大学卒業からわずか5年程度の医師であり、現時点でははっきりしませんが、当時は研修医であった可能性もあります。
また、カルテを見ると、抗菌薬の選択に、他の経験豊富な医師が関与した形跡が見られません。
つまり、本件については、臨床経験の乏しい医師に抗菌薬の選択を任せきりにしたのではないかという疑念が拭えないのです(抗菌薬の選択ミスが教科書レベルの過ちであることからしても、その可能性は相当高いように思います)。
別件でもそうでしたが、研修医、あるいは研修医上がりの経験の乏しい医師に、難しい判断を伴うような医療行為の判断を任せきりにしたことによって生じる医療事故は決して少なくありませんから、この点がどうであったかは、本件でもきちんと検証されなくてはならないと考えています。
もう1つの問題は、この病院が感染防止対策加算1という評価を得ているにもかかわらず、本件事故が起きているということです。
つまり、この病院には感染症対策室があって、感染症対策がきちんとできることで保険点数が加算されているわけであり、なのに、本件のような抗菌薬の選択ミスが立て続けに起きたということは、感染症対策室がまったく機能していなかったのではないかという疑念が想起されるのです。
薬剤耐性菌が増えており、抗菌薬の使い方については、きちんとした知識と経験が必要ですし、感染症は生命予後に直結するわけですから、感染症対策室が機能していたのか否か、仮に機能していなかったとすれば、その原因はどこにあるのかということもまた本件ではきちんと検証されなくてはならないと考えています。
私たちは、医療事故を扱うとき、どうしても個々の医療者のヒューマンエラーを取り上げざるを得ないのですが、事故の再発を防ぐためには、医療事故が起きないような医療側のシステムの問題に目を向けるべきと感じることがしばしばあります。
本件は、まさにそのような事故なのではないかと考えているわけです。
ヒューマンエラーが起きたその背景にあるもの、その原因をきちんと検証し、どこをどう改善すれば、同様の事故が防げるのかといったことを視野に入れながら、今後の訴訟手続に臨んで行きたいと考えています。

裁判については、今後の展開に応じてまた節目節目でご報告したいと思っております。

2022年05月12日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~「フォルクマン拘縮」の医療事故解決のご報告

葵法律事務所

前にもこのホームページで取り上げさせていただいた「フォルクマン拘縮」の医療事故が解決の運びとなりましたので、経過も含め、ご報告させていただきます。

フォルクマン拘縮とは、いわゆる「コンパートメント症候群」の内、上腕部に起きるもので、医学的な表現としては、「阻血性拘縮」がわかりやすいですね。
具体的には、肘の周辺の骨折などのあとに、内出血や圧迫などによって閉鎖された筋肉・神経・血管の組織の内圧が上昇し、循環不全を来し、筋肉の組織が壊死したり、末梢神経が麻痺するなどして肘から手指にかけての拘縮や神経障害を生じさせるというものですが、特に、小児の上腕骨顆上骨折では重要な合併症の一つとして知られています。
本件では、フォルクマン拘縮を来した結果、未成年の患者の右上肢に機能障害、神経障害,そして右手の指にも機能障害が残っており、手や指先が思うように使えない等、働く上でも日常生活でも大きなハンディキャップを背負う結果となっています。

フォルクマン拘縮は、骨折後の初期治療の段階で起きることが多いのですが、かつて伺った小児科の医師は、「普通に気を付けて治療にあたっていれば避けられるはず」とおっしゃり、「医師にとってのABC」という言い方をされていたのが強く印象に残っています。
ではフォルクマン拘縮がなぜ起きるかといえば、骨折直後の骨折部位が腫脹、つまり腫れて膨らみやすい時期に、ギプス等による固定を安易に行うことで、本来であれば、腫れて外に膨らむところを抑え込んでしまうため、骨折部位の圧が内側に戻ってしまい、血流が阻害されてその先の筋肉や神経にダメージを与えるという機序によるものです。
ですので、整形外科領域では、骨折から間もない時期は患部が腫れるので、ギプスはせず、腫れが治まってからギプス固定を行うのが臨床的には基本だそうです。
また、仮にギプス固定をしても、フォルクマン拘縮の兆候が見られた場合には、ただちにギプスを外して圧を開放しなくてはならないし、早期にその徴候に気づいてただいに圧を開放する処置をすれば、阻血による障害は生じなくて済むとされています。
ちなみに、その兆候とは、3Pとか5Pとかいわれるもので、pain(疼痛)、pulselessness(脈拍喪失)、paralysis(運動麻痺)、pallor(蒼白)などが挙げられています。
それらの症状が見られたら、とにかくギプスを外せということに尽きます。
フォルクマン拘縮は阻血の程度にもよりますが、短時間で完成してしまうとされていますし、小さいお子さんの場合や入院後の深夜に症状が現れるといった場合には、気づくのが遅れて手遅れになってしまうこともありますから、患者側も、骨折直後のギプス固定には要注意とういことを覚えておいた方がいいと思います。

本件では、当初、病院側は「ギプス固定ではなく、シーネ固定、つまり半割のギプスなので、問題はなかった」という主張をしていましたが、半割のギプスであっても、包帯で巻いて固定しており、内圧が高まることは当然にありますし、現に患者がずっと激痛を訴えていたのにシーネ固定を続け、フォルクマン拘縮で障害が残ったわけですから、通らない言い分であることは明らかでした。
なんにせよ、ギプス固定後に、激痛や爪の色の変化などの異常に気づいたら、躊躇せず固定を外し、すぐ病院に行くことが肝要です。
イロハといわれながら、未だに後を絶たない種類の事故ですので、医療のエアポケットみたいなところもあるのかもしれません。
お子さんに多いこともありますので、周囲、特に親御さんがしっかり気をつけてあげるほかないのだと思います。

ところで、本件においては、医療側の代理人の弁護士にも感謝申し上げたいと思っています。
このホームページでもしばしば指摘していますとおり、現実の医療側代理人の対応を見ていると、荒唐無稽な医学的主張で「黒を白と言い逃れよう」という噴飯物の対応が跡を絶たないのが実態ですが、本件においては、交渉のやりとりの中で、医療側の代理人が事件の落としどころを冷静に見極め、真摯にご対応いただいたことに心から敬意を表したいと思っております。

私たちは、個々の医療事件について、真相解明と、適切に民事責任が認められることを一義的に考えており、個々の医療者や医療機関を必要以上に追い込むことはまったく本意ではありません。
医療過誤は、ミスではあるものの、医療の世界では、ミスが起きることや不幸な結果が生じることは現実的には不可避なところもあるので、そのたびに個々の医療者の非を責めるということは適切ではないと考えているからです。
早期の真相解明と適切な被害回復が計られることが何より重要ですし、その上で、事故の再発防止に向けた教訓にしていただくことが私たちの望みなのです。
その意味からしても、医療機関にとっても良い解決だったに違いないと思っています。
また、事故後に、医療機関側から自発的に事故についてきちんと公表いただいたことも含め、非常に有意義な解決であったと感じております。
他の医療事件においても、医療機関側にそのような解決を図る姿勢があればと心から願っております。

最後に、この事件も、親しい弁護士から相談され、お手伝いした事件でしたが、お役に立ててよかったし、お声がけいただいたこと、心から感謝申し上げたいと思います。
前にも書きましたが、医療事件については、どうしても医療訴訟の実務的なノウハウや協力医の確保、医学的機序、過失、因果関係に関する検討のスキルなどの問題があって、おひとりで取り組んでいると行き詰ってしまうことがあり、医療事件に詳しい弁護士に相談することはとても有意義な場合があります。
ですので、相談を受け、あるいは受任した後になかなか見極めがつかず、突破口が見いだせないでおられる弁護士の方がおられましたら、臆せず、医療事故に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。

2022年03月16日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~「局所麻酔薬中毒による死亡事故」の解決のご報告PART4

葵法律事務所

局所麻酔薬中毒の医療事故の件で、最終回となります。

最後に取り上げたいのは、医療過誤訴訟における鑑定の問題です。
今回の医療事件では、同じペインクリニックの専門医の方に、計5通の鑑定意見書の作成をお願いしました。
あらためて振り返ってみても、極めて的確な意見を伺えたと思いますし、この専門医の協力なくしては本件の解決には至らなかったと実感しておりますので、あらためて心から感謝申し上げたいと思っております。

ただ、裁判の中で難しいのは、裁判官によっては、一方から出される私的鑑定意見書については、どうしても色眼鏡で見る傾向があることです。
重要なことは、私的鑑定か公的鑑定かではなく、内容の信用性であり、きちんとした医学的根拠に基づいた意見が述べられているかのはずなのですが、裁判所は、形式的なところに囚われる傾向があります。
本件でも、PART3で述べたアドレナリンについて、被告側の鑑定医は、「アドレナリンは有用ではない」と堂々と意見を述べているわけで、それのみで見ても、如何に信用性に乏しいかは一目瞭然のはずなのに、長期にわたって裁判所がそれを明言することはありませんでした。

前にも書いたとおり、医療過誤訴訟は、まだ試行錯誤が繰り返されている発展途上の領域であると思っていますが、中には、前のやり方に戻すべきであると強く考えていることがあります。
それは、鑑定医に対する法廷での尋問(鑑定人質問)です。
今の裁判所は、私的であれ、公的であれ、まず、鑑定医への尋問はやろうとしません。
しかし、この「端から尋問をやらない」というスタンスが、いろいろな意味で弊害を生んでいると思います。
たとえば、被告側の鑑定医(中には保険会社のお抱えもいたりします)が、言いたい放題のことを書いても、尋問に呼ばれて反対尋問に晒されることがないとわかっているので、求められるままに虚偽の鑑定意見書を作成して来ます。
翻って、患者側は、意見書をお願いできる医師は、ご自身の見解を曲げて患者側に寄せて書いてくれることはまずもってあり得ないのですが、被告側の鑑定意見書を見せると、「なんで医者がこんなことを書けるのだろう」と絶句されることも決して珍しくはないのです。
医療側から出て来る鑑定意見書のでたらめぶりは、裁判所が「鑑定医に対する尋問をやらない」という流れになって以降、加速している印象があります。

もう一つ、今回の裁判でダメ押しになったと思われる展開があります。
それは、医療事故情報センターが出している「鑑定書集」に、本件の類似案件が掲載されており、それに気づいた私たちが、その事件の原告代理人弁護士に連絡を取ったところ、その裁判が行われていたころは、まだ鑑定医への尋問が実施されていて、この原告代理人弁護士の手元に、当該鑑定医の尋問調書が残っており、それが入手できたということでした。
私たちは、その事件の代理人の好意により入手した尋問調書を分析した上で、証拠として提出することにしました。
この鑑定医は、ペインクリニックの世界ではベテランにあたる方で、私たちがお世話になっているペインクリニックの専門医の方もよくご存じの方でしたが、その方の尋問の中での発言は、私たちが専門医から伺ったこととまったく同じ内容でしたが、やはり尋問で生の言葉で語られているとより説得力が増すように思われました。
私たちの協力医は、最初から、「局所麻酔薬中毒による心停止は、たまに起きることだけれど、慌てないで救命処置を施せば、ほどなくケロッとした感じで蘇生し、何事もなかったように帰宅される」と話していたのですが、尋問調書でも、アドレナリンの有用性を明確に指摘した上で、「「十分な血圧の維持と、人工呼吸などの救命処置を適切に実施し、体内に酸素が行きさえすれば、局所麻酔の作用が消失するにつれ、元通り数時間で回復して、その日のうちに帰宅できている」と、鑑定医自身の臨床経験も踏まえ、明確に証言されていたのです。

今回、あらためて、裁判を振り返ってみた時、この鑑定医の尋問調書は、非常に有用な証拠であるということを強く実感しました。
当然ながら、双方の代理人、そして裁判所からも質問が出され、医師がそれに答えるというやりとりが重ねられているわけで、医師が述べた医学的意見が、尋問に晒され、検証がなされることの有用性は何物にも代え難い価値、説得力があるからです。
あとなんといっても、鑑定医は基本的には真面目な方が多いので、きちんとした医学的知見を踏まえて質問をすると、法廷の場では率直に結論を変えて来られることもあります。
実際のところ、裁判所は、一方では鑑定意見書を重視するような言い方をしますが、そうであれば、その信用性が法廷の場で検証される機会が一定程度は保障される必要があります。
もちろん、すべてのケースでとまでは言いませんが、鑑定医への尋問をやらないことが原則になっているような今の裁判所のやり方は改められるべきと思います。
裁判は、真相を解明し、責任の所在を明らかにするための手続ですから、過度に手続に制約を設けて、その機会を奪うこと等、本末転倒だからです。
医療過誤訴訟のあり方が変われば、医療現場にも良い影響が与えられると信じて止みません。

2022年02月22日 > トピックス, 医療事件日記
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