事務所トピックス

医療事件日記~遠方の医療事件

葵法律事務所

実は、なぜか遠方の医療事件の相談や依頼を受ける事が増えています。
やはり、インターネットの時代ゆえなのかもしれません。
こうした場合、打ち合わせに来てもらうことの大変さや証拠保全の手間、訴訟の管轄の問題もあって、横浜の弁護士が事件を引き受けることが難しいことも当然あり得るわけですが、いくつかの事件については、そのまま相談から受任に至っています。
掛かる実費の負担の問題等についてご納得いただけるということであれば、通信手段が多様になっていることもあって、医療事件に限らない事ですが、遠方の事件であってもかつてほど大変ではなくなって来ていると感じます。

ところで、遠方(地方都市)の事件に取り組んで証拠保全、交渉などの段階を踏んで行くうちに何となく感じたことは、地方都市のほうが、医療従事者や相手方代理人の対応が柔らかく、東京、神奈川あたりとは違って、どこかゆったりとしているなあということです。
先日、京都での面会交流調停のことを書きましたが、それと似たような、人の対応のおおらかさというか、心のゆとりのようなものを感じたりしています。
今年、ちょうど同時期に、立て続けに遠方のやや小規模な地方都市での証拠保全と横浜での証拠保全を実施したということがあったのですが、正直、病院側の対応には天と地ほどの違いがありました。
地方都市の証拠保全の際には、病院内の方々が、こちらの質問に一生懸命な感じで答えてくださり、やりとりの中でいろいろと作業をお願いしたことに対しても、こちらが恐縮するくらいとても丁寧に対応していただいたのですが、横浜での証拠保全では、病院の医者が、「業務中に迷惑だ」と、激しい剣幕で裁判所に食って掛かるなど、やたらストレスのたまるやりとりになりました。
それだけでなく、そのケースでは、夏の暑い盛りに、狭い応接室に押し込まれ、椅子も足りないし、エアコンも入れてもらえずという次第で、蒸し風呂のような状態の中で、立ちっぱなしで証拠保全の作業を実施させられる羽目になりました。
まあ、この病院の対応は極端としても、何度か経験した地方都市の病院の場合、医療者の方々の対応は、構えるという感じもなく、本当に相手方なのかと思うくらい、のんびりした対応でした。
また、病院側の弁護士の対応にも大きな違いがあるように感じました。
前にも述べたことがありますが、東京、横浜あたりの医療事件で出くわす医療側代理人は、対応がすごく事務的なだけでなく、明らかに有責の症例でも、平然と過失なしの主張をしてきます。
交通事故の場合にもありますが、医療者のためではなく、保険会社の利益のためだけに活動しているのではないかと首を傾げたくなる代理人も少なくないように思います。
しかし、地方都市の医療事件での現地の代理人弁護士とやりとりしていると、巡りが良かったということもあるのかもしれませんが、事案の真相を踏まえ、大局的な医療機関、医療者の利益を考えて代理人活動をしているように感じられたのです。
立場の違いはあるにせよ、真相を見極め、患者のための医療に資するような解決を図れるような関係性が築ければと願ってやみません。

ともあれ、遠方の方からの相談にもできるだけお応えしたいと思っておりますので、医療事故(に限りませんが)で悩んでおられるなら、遠方の方も遠慮なくご連絡ください。

2018年11月01日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~「あまりにおかしな電子カルテ」Part2

葵法律事務所

前回の続きです。

私たちが、裁判所に対して当該病院の電子カルテの記載の矛盾点について指摘した上、釈明を求めたところ、後日、病院側から、電子カルテの仕組みについての説明文書が提出されました。
ある程度予想したことではあったのですが、実際に証拠提出されたものを読んで愕然とし、また、憤りやらのいろんな感情が湧いて来ました。
まず、証拠提出された説明文書によりますと、この病院の電子カルテは、記載の途中で「仮登録」という手順を踏むと、以後は、自由に書き足したり、書き換えたり、さらには削除することができるということであり、しかも、そのような加筆、訂正、削除などの行為がいつ行われ、訂正前がどのような内容であったかは、電子カルテ上では確認できないという仕組みになっているようでした。

この点、これまで、私たちが見て来た他社の電子カルテでは、たとえば、最初の記載については「第1版」そして、いったん更新したものは、「第2版」という形で保存され、その記載を書き足したり、書き換えたりするとそれは「第3版」ということになって、パソコン画面上で確認もできますし、さらに、電子カルテ全体を一括出力するという手順を踏めば、すべてプリントアウトされるようになっていました。
しかし、この病院の電子カルテでは、そのような更新という手順を踏まずに、容易に書き換え、削除ができてしまい、しかも、加除訂正された内容も書き換えされた時刻も電子カルテ上ではまったく表示されないというのです。

私たちは、この病院の電子カルテの仕組みは、厚労省が定めた、電子カルテの真正性と見読性の原則に明らかに反していると考えています。
なぜならば、仮登録のままにしておけば、後で、いくらでも書き足したり、書き換えたりすることができてしまうことになり、しかも、そうした書き換え等がいつ行われたかがわからなくなってしまい、診療行為の内容をあとで検証することができなくなってしまい、監査等に差し支えることは明白だからです。
現に、今回、私たちが指摘した個所について病院側がデータベースをもとに行った説明では、最初の入力時点に、主治医によって書かれた診療行為に関する重要な記載が、その後3回の仮登録を経て、4回目の書き換えの際に、ばっさり削除されていました。
それは、なんと最初の入力の時刻からすると、8時間40分も経過した後でした。
その間に、病院側は、遺族に対して、「原因は不明だが、病院側に責任はない」という意味不明の説明をしているのですが、いずれにせよ、記載してから8時間以上経過後に、その記載を削除する行為は、「改ざん」以外の何物でもありません。
しかも、その間に3回も仮登録が繰り返されており、いずれの仮登録も深夜になされていることからして、主治医には、電子カルテ上に見えない形での書き換え、削除ができる「仮登録」という状態を継続しようという意図があったのではないかと疑わざるを得ません。
とにかく、この電子カルテでは、そうした仕組みを利用することで何時間経っても自由に記載の書き換え、削除ができるだけでなく、そのような書き換え、削除がなされたことが時刻も含め、電子カルテ上にまったく表示されないわけで、電子カルテシステムへの信頼の根っこから失わせる大問題といっても過言ではありません。
ちなみに、私たちがこの電子カルテの異常性に思い至ったのは、前回の記事で触れたとおり、記載中に明らかな矛盾があったことに気づいたからで、そうでなければ、どこかおかしいと感じる程度で、電子カルテの原則を踏みにじるような仕組みであるということにまではたどり着けなかったかもしれません。
逆に言えば、電子カルテの仕組みを理解しておくことと電子カルテの証拠保全に関するスキルを身に着けておくことは、医療事件を扱う患者側代理人にとってはもはや必須なことといえます。

本論に話を戻します。
とにかく、この病院のような電子カルテの仕組みだと、後からの事故の検証が非常に難しくなるわけで、もしかすると、これと同様の電子カルテシステムが導入された医療機関においては、カルテの改ざんが横行し、真相が闇に葬られてしまった医療事故が少なからずあるのではないかとの疑念さえ湧いてきますし、非常に強い憤りを覚えます。
考えてみると、電子カルテのシステムは非常に高額なので、電子カルテはシステムを構築するサプライメーカーにとっても巨額の利益をもたらすとのことですが、メーカーにとっても競争であり、どの電子カルテシステムを導入するかは病院側の判断ですから、病院側の要望(ニーズ)にどこまで応えるかということによって、そのメーカーのシステムを選んでもらえるかが違って来るということは想像に難くありません。
となると、医療事故の隠ぺいがし易いようにと病院側が望んだ場合、その要求に応えられるような電子カルテシステムを「売り」にするサプライメーカーがいても不思議ではないのかもしれません。
それともう一つ、このシステムを実際に扱っている被告病院の医療者は、記載の書き換えが容易にできてしまうことを重々承知しながら、日常の業務を行っていたことになるわけで、現場の医療者はどのような気持ちでこの電子カルテを扱っていたのでしょうか。
医療者としての良心を持っていれば、この電子カルテはおかしいと抗議の声を上げるべきだと思うのですが、現実的にはなかなか難しいことかもしれません。
ルールを踏みにじるような電子カルテのシステムは、もしかすると、医療者のモラルの崩壊を助長させるための「悪魔のささやき」なのではないかという気すらして来ます。

実は、当該事件を一緒に取り組んでくれている若手の弁護士がこの電子カルテの仕組みについて研究してくれていて非常に詳しいので、この問題について最近よく話をするのですが、この欠陥電子カルテの問題については、できるだけ早い時期に何らかの提言、問題提起をしなくてはいけないと考えています。
また、この件は、現在進行形の裁判の中でのお話でもありますので、今後も、新たな事実が判明した場合には引き続き報告させていただきます。

2018年08月18日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~「あまりにおかしな電子カルテ」Part1

葵法律事務所

このことについては、前から想像していたことではあるのですが、ある総合病院の使っていた電子カルテに絶対にあってはならないあまりにおかしな仕組みが組み込まれていたという衝撃の事実が、裁判の中で明らかとなりましたので、そのことについてちょっと書いてみたいと思います。

まず、初めに、電子カルテの仕組みについて、基礎的なお話をします。
元々、カルテについては、紙媒体による保存が義務付けられていたのですが、その規制が緩和され、電子保存が可能となった際に、厚労省は、電子保存の三原則なるものを定めました。
その三原則とは、「真正性」「見読性」「保存性」の3つです。
この内、「真正性」とは、正当な人が記録し確認された情報に関し第三者から見て作成の責任の所在が明確であり、かつ、故意または過失による、虚偽入力、書き換え、消去、及び混同が防止されていることです。
次に、「見読性」とは、電子媒体に保存された内容を、権限保有者からの要求に基づき必要に応じて肉眼で見読可能な状態にできることですが、「診療に用いるのに支障が無いこと」だけでなく、「監査等に差し支えないようにすること」も必要とされています。
また、「保存性」とは、記録された情報が法令等で定められた期間に渡って真正性を保ち、見読可能にできる状態で保存されることです。
こうしたことは厚労省のガイドラインに書かれていることですが、電子カルテには容易に書き換えができ、改ざんのリスクが伴うので、そういうことが起きないよう、定められた電子カルテに関するルールというわけです。

そこで、問題となった電子カルテについてですが、実は、証拠保全の段階で、おかしな点があるということはすでに分かっていました。
元々、依頼者の方がカルテの開示請求で取り寄せていたものを検討していたのですが、電子カルテの各記載の個所に表示された時刻と記載内容が一致しない等の疑問な点もあり、証拠保全に踏み切ったという経緯があったのです。
ところが、その証拠保全の手続の際、さらなる疑問というか、記載の中に明らかな矛盾が存在することが判明しました。
その事件は死亡事故だったのですが、主治医が経過をまとめた部分の記載の作成時刻を参照して、証拠保全の場で病院側に説明を求めたところ、その記載中に、作成時刻と説明された時刻より後の事象(出来事)が記載されていたのです。
もっと具体的に言うと、電子カルテの記載の作成時刻と説明された時刻から約2時間後に患者さんが亡くなられているのですが、その2時間前が作成時刻だとされた個所にその死亡時刻が載っているのです。
当然ながら、そんなことは絶対にあり得ないので、なぜそのようなことになるのか、説明するよう病院側に繰り返し求めましたが、手続の場には事務局の人間しか現れないため、要領を得ず、結局、その場では、なぜそんなトリックのようなことができるのかの回答は得られないままで終わったのです。
その事故については、現在裁判中なのですが、裁判になる前にも何度か、この電子カルテの記載の矛盾について病院側に説明を求めたものの、やはり何の回答もありませんでした。

ところで、医療裁判においては、裁判が始まると、ほどなく、主張立証手続と並行して、「診療経過一覧表」というものを作成するのがルーティーンとなっています。
当該事件においても、この「診療経過一覧表」の作成作業に取り掛かったのですが、この電子カルテの記載時刻の矛盾の問題から、私たちは作業を進められなくなりました。
「診療経過一覧表」の作成の作業の際に、私たちは、被告がカルテの記載をもとに主張する事実経過が正しいのか間違っているのかをチェックするのですが、今回のカルテでは個々の記載がいつの時点で書かれたものかがはっきりせず、にもかかわらず、病院側がそれをはっきりさせないまま事実記載をしているため、その正誤を判断できないからです。
この点、患者側代理人の実感として申し上げると、事故を起こした医療機関のカルテ中に、医療者側が事実経過について嘘を書くということは、残念ながら決して珍しいことではありません。
特に、事故後に書かれたものの信用性は、事故が起きる経過の中でリアルタイムで書かれるものに比べて信用性がかなり低いことが多いのです。
問題の事故では、そうした傾向が顕著で、記入した医療者によって書いてある事実自体が大きく異なっているということもあったため、「急変前から救命処置の間に書かれたものか」「それより後に書かれたものか」をチェックすることがなおさら必要不可欠だったのですが、さらに、この病院の電子カルテの場合、個々の記載が、本当は何時何分に書かれたものかがわからず、何らかの改ざんがなされている可能性もあるため、検証が不可能と判断せざるを得ませんでした。
そこで、私たちは、裁判所に対して、当該病院の電子カルテの記載の矛盾点について指摘した上、電子カルテの仕組みのことも含めて、病院側にきちんと説明するよう、釈明を求めたのです。

ちょっと長くなったので、Part2に続きます。

2018年08月18日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~ある医療事件の提訴

葵法律事務所

ここに至るまでにかなりの時間を要してしまったのですが、ずっと準備を進めていたある医療事件について、今週、提訴の手続を取りました。
事件は、死亡事故ですが、事故後の病院側の説明が死に直結した重大な事実を隠したものだったため、患者さんが亡くなられた原因がなかなかわからなくて、調査を重ねて行く中で、やっとのこと、病院側が隠していた「重大な事実」に辿り着けたという事案でした。
今後、訴訟の進展にあわせて、依頼者のご了解がいただける範囲で、その経過報告なども行ってまいりたいと考えていますが、医療側の過った対応が、かえって患者やご遺族の医療不信を高めてしまうことにつながるのだということを、もっと医療関係者の方にはわかっておいていただきたいとつくづく思います。
本件については、刑事手続を取ってはいませんが、曖昧な説明が患者やご遺族の不信感を募らせ、本来は避けられるはずの刑事事件化を招くということもあるわけです。

また、本件においても、私たちは、提訴前に、医療側代理人に、隠蔽されていた事実とそれが死に繋がった重大な過失であることを指摘して穏便な解決を図るよう求めましたが、医療側代理人は、けむに巻くような不可解な説明でもって、私たちの求めを拒みました。
そのため、結局、提訴に至ったのですが、本件が医療側の重大な過失による死亡事故であることは明らかであるにもかかわらず、訴訟手続を取り、展開によっては、医療者の尋問などの実施に至らざるを得なくなることについては、不毛だし、率直な心情として申し上げれば、個々の医療者の非をあげつらって攻撃することは決して本意ではないのです。
時に疑問に思うことですが、医療側の代理人は、誰のために代理人活動を行っているのでしょうか?
本来の依頼者であるはずの個々の医療機関や医師のために活動をしているのだと、胸を張って言えない方もおられるのではないでしょうか?
交渉や訴訟手続の中では、賠償金をできるだけ払いたくない保険会社の利益のため(だけ)に活動しているのではないかと感じることは多くありますし、法廷などで、その言葉が喉元まで出かかって来ることも決して少なくありません。
実際、保険会社の利益と医療機関や個々の医療者の利益は時に相反することがあるはずです。
その時に、どちらの利益を優先しなくてはならないのか、答えは明らかだと思うのです。

話がちょっと逸れてしまいましたが、本件事故においても、医療側の取るべき対応については教訓となるはずの事象がいくつもあると思っていますので、いずれ、何処かでそのことも取り上げて行きたいと考えています。

2018年07月27日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~腕まくりをする医者

葵法律事務所

またもや大腸癌絡みの医療事故のお話です。

ある年配の男性が腹痛を訴え、「急性腹症」ということで、とある総合病院に入院します。
まだ若い消化器内科の医師が担当医となったのですが、その医師は、腹部超音波検査を実施した上で尿管結石の診断を下します。
結論から言うと、これは誤診で、実際には大腸癌由来の腸閉塞(イレウス)だったのですが、この誤診はその後の治療方針に重大な影響を与えることになりました。
というのは、尿管結石の場合、消化管は関係ないですから、食事摂取もOKだし、水分に関してはむしろ積極的に多く摂るようにとの指示が出たのです。
しかし、実際には、大腸癌由来のイレウス、つまり、腸管の通過障害が起きているわけですから、そこに摂取した食物や水がどんどん入り込んで来れば、腸管がさらに拡張し、イレウスは悪化することになります。
もちろん、大腸癌由来のイレウスの場合は、癌が腸管を塞いでいるので、保存療法ではなく、癌の切除を行わなければ、腸管の通過障害は解除されないことはいうまでもありません。

とにかく、腸管の減圧が必要な状況であるにもかかわらず、絶食、絶水をしなかったことで腹痛が増強したため、患者の男性は我慢できなくなって、担当医に対し、「尿管結石なんかじゃない。痛いのはお腹だからちゃんと調べてくれ」と訴えたのです。
しかし、その医師が患者の訴えを聞き入れません。
そして、さらに患者の言いように腹を立てたのか、医師は、腕まくりをしながら、「あなたは医者のいうことが聞けないのか。ならば、さっさと退院してくれ」と言い放つのです。
その時は、そばにいた家族や看護師がいったん取りなしてその場を収めますが、患者本人は、痛み止めは効かないし、お腹が張って苦しいこともあって、結局、「こんなところにいたら殺される」と看護師に言い残して勝手に退院したのです。
患者は、その足で隣の市の病院に行き、検査を依頼します。
その病院でレントゲン検査をしてみたところ、明らかなイレウス所見があり、さらに注腸造影検査を実施したところ、大腸癌があることが判明します。
つまり、患者の腹痛の原因は、尿管結石などではなく、大腸癌によるイレウスだったわけで、前の病院の医師の診断が完全な誤診だったことが明らかとなったのです。

この誤診の非常にまずいところは、尿管結石は食事摂取が問題ないばかりか、水分に至っては積極的に摂っていいという方針になるわけで、腸管減圧のため、絶食、絶水が必要となるイレウスの場合とは治療方針が真逆になるという点です。
このように、急性腹症で来院した患者につき、時に的外れな診断を行い、それに固執して、誤った診療方針を立て、適切な治療の機会を失するという事例には時折り出くわすのですが、まさに本件は、急性腹症患者に対し、安易に決めつけるのではなく、慎重に鑑別診断を行うことがいかに大切かを示す典型例といえます。
イレウスでは、立位のレントゲンを見れば、ほとんどの場合、ニボー(鏡面像)という半楕円形のようなガス像が確認できます。
それが大腸癌によるものか、癒着など別の原因によるものかの鑑別についてはさらに大腸内視鏡や注腸造影検査といった検査が必要となりますが、絶食、絶水が必要か否かの判断はこのレントゲン検査の時点でつけられるわけです。
また、本件で、次の病院で実施された注腸造影検査では、アップルコア(リンゴの芯)サインと呼ばれる、進行大腸癌でよく見られる典型的な画像が造影されています。
ちなみに、あとで、この腕まくりをした医師が尿管結石と診断したエコー検査画像を専門医に見てもらいましたが、尿管結石らしき所見はまったく見当たらないとのことでした。

医療過誤を扱っていて常々思うことなのですが、命や健康に関わる医師という仕事は、本当に大変だし、尊敬されるべき職業であることは間違いありません。
しかし、それだけに、とりわけ患者と向き合う臨床現場においては、慎重さと勤勉さ、医学や患者の訴えに対する謙虚さ、途中で診断や方針を見直す柔軟さといった様々なものが求められる、そういう重い仕事なのだと、つくづくそう思うのです。

2018年05月05日 > トピックス, 医療事件日記
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