事務所トピックス

医療事件日記~小林麻央さんの訃報に接して思うこと

葵法律事務所

小林麻央さんが亡くなられたという訃報に接しました。
まだ34歳とお若く、お子さんもまだ幼い年齢ですので、ご本人も心残りだったでしょうし、ご家族の悲しみもさぞ深いことと思います。
また、小林麻央さんの場合、ブログを更新して病状報告や周囲への感謝の想いをずっと綴っておられましたが、病気と懸命に戦いながら、前向きなメッセージを発信し続けておられた姿勢には、本当に心打たれるものがありました。
心よりご冥福をお祈りしたいと思います。

ところで、小林麻央さんの場合、しこりがあって再検査を求めたにもかかわらず、異常なしとされた時のことを、「もう一つ別の病院に行っておけば」と悔やんでおられたというお話を何処かで目にしたことがあります。
実は、乳がんについて、そうした見落としというか、検査で見つからなかったという事件を扱ったことがありますので、特に女性の方にとって少しでも参考になればと考え、ここで取り上げてみたいと思います。

乳がん検診でよく実施されるのは、マンモグラフィー(乳房X線検査)という検査です。
ただ、このマンモグラフィーという検査では、しこりや石灰化は白く映るのですが、乳腺が発達している女性の場合にはそのせいでコントラストがつきにくく、判別が難しくなることがあるとされているほか、検査手技の巧拙なども影響して、異常所見をとらえきれないことがあるともいわれています。
実際に扱った事件でも、マンモグラフィーでは異常所見は見つからなかったのですが、しこりが大きくなっていると感じたので、間をおかず、別の病院で超音波検査を受けたら乳がんが見つかったという経緯があったのです。
その事件では、専門医の方に、最初に異常なしとされたマンモグラフィーの画像を読影してもらったのですが、その画像上では乳がんを確認することはできないとのことでした。
直後の超音波検査でははっきりと乳がんが確認されていますので、専門医曰く、マンモグラフィーの検査技術の問題があるとのことでした。
手技の巧拙については、マンモグラフィーに限らないことではありますが、早期発見できるかどうかが予後に大きく影響するわけですから、やはり、異常なしと言われても、しこりやくぼみなどの異常が気になるようでしたら、専門的な医療機関でセカンドオピニオンを受けるようにすべきであるというのが、相談した専門医の方の意見でした。

一方、乳がんの治療は日進月歩で進化しています。
手術においては、早期であれば、全部切除ではなく、乳房温存治療を選択するケースが増えていますし、あとで腕が上がりにくくなるなどの副作用を生じるリンパ節郭清も、最近では、センチネルリンパ生検という術中の簡易検査を組み合わせるなどして極力やらないようになっています。
また、その後の治療も、ホルモン療法、抗がん剤療法、分子標的治療などを症例ごとに選択し、組み合わせるなどすることで、高い治療効果が期待できるとされていますし、そういった治療技術の進歩もあって、乳がんの予後は、癌の中では比較的よい方に分類されています。
しかし、それでも、小林麻央さんのように、発見が遅れれば命にかかわってくるわけですから、やはり、早期発見に努めることが何より肝要です。
繰り返しになりますが、医師から検査で異常なしと言われても、しこりなどの気になる症状があるようなら、必ずセカンドオピニオンを受けるようにしましょう。
今回の訃報に接して、あらためて強くそう思うのです。

2017年06月25日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~訴訟前の準備としての「遺産分割」

葵法律事務所

別に医療事件に限らないのですが、亡くなられた方のご遺族が損害賠償請求をする場合、特に訴訟提起段階においては「遺産分割協議書」を作成することがあります。
損害賠償請求権は金銭債権であり、可分債権、つまり計算により平等分割できるという性質を有していますので、厳密にいえば、法定相続分相当に分割した金額で請求することも可能なのですが、現実の訴訟では、いろいろな事情があり、特に医療過誤事件のような、提訴にあたって、手間暇をかけ、当面の費用負担が必要となる事件では、遺産分割協議書を作成し、提訴に踏み切るというのが、ほぼほぼ常識的な流れということになります。
遺族といっても、関係が良好とは限りませんし、疎遠になっていることもありますから、そうした場合、裁判を起こす前の段階で、弁護士が遺産分割の協議に積極的に関わって行かなくてはならないことになるわけです。

先日、そんなような事情で、依頼者の方とは事情があって数十年来音信が途切れている法定相続人のお一人に会うために、休みの日の早朝、車に乗って遠方まで出かけました。
その方には、それより前に何度か書面を送っているのですが、なしのつぶてで、一向にお返事がいただけていなかったので、ともかく直接会ってお願いしてみるしかないということになったのです。
行くまでは、会えるかどうかわからないし、もしかしたら断られるかもしれないから、無駄足になることも覚悟していたのですが、お宅に伺い、何度かドアをノックしてみたところ、運よく在宅されていて、お話を聞いてもらった上、何とか無事に遺産分割協議書に署名捺印していただくことができました。
ということで、同行してくれた、共同受任してくれている弁護士と、やれやれと胸を撫でおろしながら、車で帰途につきました。
提訴に関する他の準備は最終段階に来ているので、もうちょっとで提訴となります。
ひとつの障害を乗り越えたので、もう一度気合を入れなおして準備を進めようと思います。

2017年06月15日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~ある医療事故に関する事故調査報告書と医療事故調査制度のことPART1

葵法律事務所

現在受任しているある医療事故について、病院の経営母体から「事故調査報告書」が届きました。
その病院は公立病院なので、経営母体は公的機関ということになります。
ところで、本件事故は死亡事故で、一昨年秋から運用が始まった「医療事故調査制度」の対象案件となっています。
この医療事故調査制度については、制度設計の段階から、調査の実効性に疑問符がつけられていました。
そして、このたび現実に私たちが受け取った「事故調査報告書」は、その危惧が現実化したといってもいいほど、真相解明とは程遠い内容だったのです。
事件の内容に関することもあるので、詳細については、いずれ依頼者の方のご了解がいただけた段階で取り上げてみたいと思いますが、医療事故調査制度の仕組みとの関連で、いくつか気づいたことを指摘しておきたいと思います。

一昨年秋から始まった「医療事故調査制度」は、制度設計の段階で、医療側が責任追及に利用されることを嫌がったこと等も影響して、非常に中途半端な仕組みになっているというのが、患者側で真相解明に関わる弁護士の立場からの偽らざる感想でした。
たとえば、調査の対象とされる医療事故は「予期せぬ(正確な表現は「予期しなかった」ですが)死亡事故(死産も含みます)」のみとなっていますが、たとえば、植物状態のような重篤な後遺症が残るという重大な事故だってあるわけだし、死亡にまで至らなくとも、過誤そのものが重大なこともあるわけで、死亡事故のみに限定することについては違和感を拭えませんし、そもそも「予期しなかった」なんて表現が、逃げ道を残したような、何とも紛らわしい限定といえます。
また、調査の第一段階では、「医療事故調査・支援センター」自体による調査ではなく、あくまで、事故を起こした医療機関内部の院内調査が実施されるという仕組みになっていることも真相解明という観点からすると疑義のあるやり方です。
実際、今回の報告書も院内調査によって作成されたものです。
一応、院内調査においても、第三者が外部委員として関わることにはなっていますが、外部委員の第三者性、中立性、専門性については制度上何ら担保されていません。
医療機関側が自由に選任できる外部委員は、ただ「外部」の人というにすぎず、果たして中立公正な調査が行えるのかについては甚だ疑問と言わざるを得ないわけです。
こういってはなんですが、大企業の不祥事の際の「第三者委員会」による調査が形ばかりであることを想起させます。
とにかく、このような中途半端な制度で本当に事故の真相解明ができるのか、「仏作って魂入れず」なのではないかと危惧されていたのですが、今回、私たちが入手した事故調査報告書は、まさにそうした危惧が現実のものになっていることを実感させるものでした。
というわけで、この先が長くなりそうなので、今回は報告書の内容の話に入らず、PART2に続きます。

2017年05月31日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~鑑定意見書完成!

葵法律事務所

〇月✖日
ある医療事件がいよいよ提訴直前となっているのですが、その事件の準備段階における最後の関門が、鑑定意見書の作成でした。
事件そのものは、相談する医師が異口同音に「ひどい」とおっしゃられるほどの、重大な死亡医療事故案件なのですが、輪をかけてひどいのが事故後の医療側の対応で、医学的に矛盾だらけの責任を否定する内容の書面を事故直後にご遺族に送り付けてくるという厚顔無恥ぶりだったのです。
医療側のそうした言い訳が裁判所で通用しないことを明確にしておくために、訴訟提起前の段階で、専門医の方に鑑定意見書をお願いしたという経緯がありました。
お願いした専門医の方は、経験も豊富で、またスタンスとしても極めて中立公正な方です、
実際、出来上がった鑑定意見書は、とても論理的であり、かつ医学的根拠が明確となっていて、非常に説得的な内容となっています。

ところで、鑑定意見書を訴訟提起前に準備するかどうかは、患者側代理人にとっては悩ましいところもあって、ケースバイケースの判断ということになります。
そもそも意見書をいただくまでもないと判断する場合はありますが、逆に、訴訟前の段階では、医療側の言い分がどうなるかはっきり見通せない場合もあり、そういう事件では、訴訟提起後に争点が明確になってから作成をお願いするほうがいいと判断することもあるわけです。
また、鑑定意見書の作成のためには数十万円程度の費用が掛かりますので、依頼者の経済的な事情も考慮してあげなければならないということもあります。
ただ、訴訟提起段階で、専門医の医学的知見に基づく説得力のある意見書があれば、早い段階で裁判官が事件の真相を理解してくれることもあり、早期決着が期待できるというメリットもあります。
今回の事件では、まさにそのような判断のもとに、訴訟提起前の鑑定意見書の作成に踏み切ったというわけです。

今回の事件では、これから訴状を完成させ、近々提訴の運びとなります。
この事件に関しましては、医療事故の背景に、事故を引き起こすような医療機関の発想、さらにいえば、現在の医療に潜む病巣のような問題があるのではないかというとらえ方をしておりますので、訴訟提起後においても、ご遺族の了解を得られれば、可能な範囲で裁判の経過についても報告していきたいと思っています。

2017年03月24日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~ドクトルマンボウの本当の死因と解剖実施の必要性

葵法律事務所

〇月✕日

友人の弁護士から相談を受け、調査段階で少しお手伝いをしていた医療事件が無事解決の運びとなったとの連絡が来ました。

その事件は、当初、ある病気で入院し、いったん容態が回復した後、病室で急変したというもので、うっかりモニターの電源を切ってしまっていたため。病院側が急変に気付くのが遅れ、患者が死亡されたというものでした。

ただ、その事故では解剖が実施されなかったため、死因が特定できず、元々の疾病で死亡された可能性も残ることから、モニター電源が切れてなかったとしても救命できたかどうかについてなかなか確証が得られないという状況に陥っていたのです。

相談を受けて、紹介した医師の方から有益な意見がうかがえ、また鑑定意見書を書いていただけたこともあって、訴訟に踏み切り、このたび、死亡についてある程度の責任を認めるレベルの解決に達することができたということでした。

和解内容をうかがいましたが、解剖を実施しておらず、死に至るまでの機序について本当のところがわからない事件としてみると、かなり良い解決になっているのではないかと思いましたし、相談を受け、多少なりお手伝いした事件でしたので、ちょっとホッとした次第です。

ただ、それでも、やっぱり解剖をしておけばよかったのになあという思いは残るわけです。

解決の水準ということもありますが、真相がより明らかになった可能性は高かったでしょうし、真相解明のための苦労も相当違って来たはずだからです。

その方の事故の場合、なぜ解剖に至らなかったかはよくわかりませんが、現実に医療事故の相談を受ける立場から振り返ってみると、ミスをした医療者側に、何とか解剖をさせないように説得しようという心理が働き、そうした説得の結果、解剖がなされないままで終わってしまうケースも決して少なくないように思いますし、現にそうした印象を抱かざるを得ないことは時折あるのです。

 

少し前のお話になりますが、戦後を代表する作家として知られるドクトルマンボウこと北杜夫さんが亡くなられた時のことが後になって報道されています。

北杜夫さんといえば、戦後の日本文学史において、軽妙な文体で、ある時期、狐狸庵先生こと遠藤周作さんと人気を二分した作家です。

その北杜夫さんが亡くなってしばらくして、当時医師から説明された死因が嘘だったことが明らかになります。

その時のニュースによりますと、死亡時には、「腸閉塞から敗血症性ショックになって死亡した」という説明だったのが、後になって、「吐物誤嚥による窒息死」が本当の死因であることが判明した、つまり死亡時の説明が嘘だったことがわかったというのです。

どうしてそのようなことが表に出たのかはわかりませんが、もしかしたら内部告発のようなことがあったのかもしれません。

いずれにしても、腸閉塞から敗血症性ショックになってしまった場合よりは、吐物誤嚥による窒息死であった場合の方が、ケースにもよりますが、医療側の責任が問われる可能性は高くなるように思われますので、病院側は、ご遺族からの責任追及を恐れて死因について嘘の説明をしていたのかもしれません。

ただ、このニュースでより注視すべきことは、解剖に関する病院側の対応だと思います。

報道によれば、解剖を実施するかどうかの話し合いの際に、医師が、「解剖をやるとすぐに帰れなくなる。ガッと開けるから見栄えのこともある」などと説明したため、遺族は解剖を断念したという経緯があったそうです。

もちろん、解剖をやっていれば、吐物誤嚥による窒息死であることはすぐに明らかになりますので、死因の説明が嘘である以上、それがばれることを恐れての説得であった可能性が高いように思われます。

医療事件では、過失だけでなく、その過失のせいで悪い結果が生じたかどうか、つまり因果関係の方がより重要になって来るケースは少なくありませんが、死亡事故の場合、そのための重要な情報が解剖所見であり、それゆえ、死亡事故の場合、解剖を実施しないと、どうして亡くなられたのかがわからず、責任を問えないで終わってしまうことになりかねません。

北杜夫さんの場合のように、後になって真相が表に出ることはほとんどないことですので、死亡事故で死因とかに納得できないような場合には、大切な家族を亡くされたご遺族にとっては難しい選択かもしれませんが、解剖をして死に至る機序を確認しておくことが真相究明のために必要ことだということを申し上げておきたいと思います。

2017年02月15日 > トピックス, 医療事件日記
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