医療事件日記~「局所麻酔薬中毒による死亡事故」解決のご報告PART1
横浜地方裁判所に係属しておりました「局所麻酔薬中毒による死亡事故」の医療過誤訴訟が、患者の死亡が被告医師の過失によるものであることが明確に認められ、非常に高水準の和解金を被告側が支払うことで裁判上の和解が成立し、解決の運びとなりましたので、その顛末を含め、ご報告させていただきます。
なお、本件につきましては、箕山榎本総合法律事務所の先生方と共同で取り組んでまいりましたので、最初に信頼してお声がけいただいたことも含め、同事務所の箕山弁護士、榎本弁護士、西田弁護士にも心から感謝申し上げたいと思っております。
初めにお断りいたしますと、私たちが扱った事件についてご報告させていただく趣旨は、何よりも同種の医療事故の発生を防ぐために、それが有用なことと考えるからにほかなりません。
事故の経過を検証する中で、なぜこのような事故が起きたか、また、どうやったら死亡という最悪の結果が避けることができたかについて様々な教訓を得ることができます。
それを広く知ってもらうことが、同種事故の再発防止につながると信じて止みません。
もちろん、医療事故調査・支援センターの活動や、個々の医療者、あるいは病院などでも取り組まれている事故防止に向けた様々な試みがあり、そのことには常々敬意を表したいと考えているところではありますが、個々の医療事故が事件として顕在化し、その中で明らかになった事故の経緯に関する事実や交渉や訴訟などの経過やその結末もまた、それとは違った意味で得るべき教訓があり、事故の再発防止に資するはずだからです。
あと、もう一点、交渉、裁判を通じての医療側代理人の争い方がどのようなものであったかを形に残しておくこともまた、医療事故発生後の交渉や訴訟手続のあり方を含め、不毛な紛争を避ける意味でやはり教訓にすべき点があると考えております。
特に、医療事故訴訟はまだまだ未成熟な領域です。
実際、訴訟手続に関わっていても、まだまだ試行錯誤が続いていると感じますし、中には、真相解明という観点から見て逆行していると感じるような実務の運用も少なからずあります。
多くの場合、裁判所、そして個々の裁判官も非常に努力されていると感じてはいるのですが、実際には、訴訟手続の進め方、主張立証責任の分配の問題も含め、改善されるべき点は非常に多いというのが率直な感想です。
ですので、私たちが経験したことをお伝えし、また改善すべき問題点を指摘することは、医療訴訟のあり方に良い影響を与えるに違いないと確信しているところでもあります。
本件事故では、まさしくそうした裁判所の手続や主張立証責任の分配の問題等について、いろいろと考えさせられる局面もありましたので、そのことも含め、本文中で触れて行きたいと思います。
本文に入る前にもう一点指摘しておきます。
私たちは、あくまで、事故の真相究明、被害者の救済、事故の再発防止を目的に取り組んでおりますので、個々の医療者、医療機関の実名を取り上げて、やり玉に挙げるようなことは原則として行わない方針で臨んでいます(もちろん、事件の内容や事故後の対応によって例外がないわけではありませんが、それでも事件が終了した時点では「ノーサイド」の精神で向き合いたいと考えています)。
医療者の方々も本稿をご覧になることがあるかもしれませんし、それは私たちの希望でもありますが、私たちの取り組みの趣旨を重々ご理解いただきますよう、どうかよろしくお願い申し上げます。
なお、本稿は非常に長くなりますので、今回はPART1ということになります。
本件は平成24年に市中の整形外科クリニックにおいて起きた医療事故です。
若く健康な青年が、肩こりの治療で、地元の整形外科クリニックでトリガーポイント注射を施行してもらったところ、使用した局所麻酔薬が頚動脈内に誤って注入されてしまい、局所麻酔薬が脳の中枢に作用して、施術の直後に意識消失から心停止となり、その後救急要請がなされたものの、低酸素脳症となり、死亡するに至ったという事故です。
トリガーポイント注射とは、神経ブロック注射と似た治療ですが、圧痛点に局所麻酔薬を注射して痛みやしびれなどの症状を軽快させるという治療です。
ただ、使用されるリドカイン(薬品名キシロカイン)等の局所麻酔薬には神経毒性があり、脳への中枢に作用すると、少量でも意識消失、心停止に陥らせる危険があるのですが、そのことは麻酔科、ペインクリニックの領域ではごく基本的な医学的知見なのです。
ほかにもアナフィラキシーショックや迷走神経反射といった症状を引き起こすことが知られていますが、極めた短時間の内に心停止という事態を生じさせることになります。
受任後、本件患者の死亡がどのような機序で生じ、医療者としてどのような注意を払わなくてはならないかを解明するために、私たち代理人は、証拠保全後、ペインクリニックの専門医に相談しました。
局所麻酔薬中毒の具体的な機序は、血管内への誤注入のみで生じるわけではありませんし、そもそも、局所麻酔薬中毒を生じさせたこと自体が過失になるのではないかという問題もありますので、個々の症例に応じた具体的な検証が必要でした。
この点、相談したペインクリニックの専門医の意見は極めて明快なものでした。
まず、機序の点については、トリガーポイント注射で使用した局所麻酔薬が誤って頚動脈内に注入されると、極めて短時間で脳の中枢に作用するため、誤注入の直後に、意識消失となって心停止に至るということで、本件の場合、そのような機序を辿ったことに疑う余地はないとのことでした。
実際、このような機序の点については、本件では、当初、被告側も争う姿勢は見せていたものの、途中でそれを認める姿勢に転じています。
次に、過失の点ですが、大きく分けて2点が問題となります。
まず、誤注入させたこと自体の過失です。
患者にしてみれば、肩こりの治療のつもりで整形外科クリニックに行って心停止に至るなんてことはあり得ないような話であり、誤注入させたこと自体がとんでもないことともいえます。
実際の注射の手技では、バックフローといって、注射管への血液の逆流の有無をチェックすることが必要であり、また注入量を少なめにするなどの対処が生じさせたこと自体に重大な過失があるのではないかと考えました。
ただ、相談したペインクリニックの専門医は、どんなに注意しても、誤注入のリスクを100%排除することはできないとのことで、バックスフローなどの慎重な手技を怠ったことが明らかな場合以外は、それ自体を過失と問うのは難しいかもしれないという話もされておりました。
しかし、いずれにしても、トリガーポイント注射や神経ブロック注射には誤注入による心停止を引き起こすリスクが存する以上、それらの手技を行う医師が、適切な救命処置を執るべきは当然なので、その点の過失は明らかであるし、それさえ適切に実施されていれば当然に救命できたはずであるというのが専門医の見解でした。
そこで、私たちは、適切な救命処置が執られなかったことを医師の注意義務違反(過失)として構成し、平成28年に訴訟提起に踏み切りました。
訴訟が開始されると、クリニック側からは驚くべき主張が出て来ました。
一つは、心停止時にアドレナリン(エピネフリン)を投与しなかったことが救命処置として不適切ではないという主張であり、それ自体、明らかに誤った主張なのですが、この点については後で取り上げます。
もう一つの驚くべき主張というのは、事故発生の時系列に関する事実主張でした。
実は、搬送先の大学病院に被告医師が同行しており、搬送先で、トリガーポイント注射の実施時刻については午前9時20分と説明していましたし、私たちが一度話を聞いた時も、被告医師は、注射の時刻は午前9時半前後と説明していました。
一方、急変後、実際に救急要請(119番通報)がなされたのは午前9時55分のことでした。
そのため、その間に行ったとされる救命処置が不適切なものであることや救急要請の遅れを指摘したのです。
ところが、被告は、訴訟の中で、急変した時刻が午前9時55分頃であり、急変の時点で直ちに救急要請をしたという主張を展開してきたのです(注射直後の急変という前提があるので、注射の時刻もそれに近接した時刻という主張になります)。
しかし、被告側主張は、事実経過としても不自然であり、被告医師自身の事故直後の説明とも矛盾しているわけですから、どう見ても無理がありました。
ただ、問題なのは、このような荒唐無稽ともいえるような被告側の時系列主張について、裁判所がそれを明確に排斥しないまま、訴訟が5年目にまで突入してしまったことでした(もちろん、私たちはその間に様々な主張立証活動を重ねています)。
期日が重ねられる中で、いったんは、当時の裁判体の部長が、被告側の時系列に関する主張には無理があるとして、時系列について心証を得たような発言をしましたが、その裁判官が転勤で交代すると、まるでその心証開示がなかったかのように白紙に戻り、以後も被告側はこの時系列に関する荒唐無稽な主張をひっこめることはありませんでした。
結論的には、裁判所が原告勝訴の心証を開示して被告側の不合理な時系列主張は排斥されて和解にこぎつけることができましたが、この訴訟には色々な意味で得るべき教訓があります。
いくつかのポイントに分けてそのことを取り上げてみたいと思いますが、長くなりましたので、PART2へと続きます。
医療事件日記~病院内での入浴中の溺死事故に関する提訴のご報告
このたび、神奈川県内のある総合病院における入浴中の溺死事故について提訴の運びとなりましたので、ご報告させていただきます。
同事件は、かなり前の事故ですが、まったく別事情で提訴に時間がかかり、やっと提訴となりました。
事件の概略ですが、70台の高齢の男性が地元の総合病院に入院となって数日後に、単独で入浴したところ、浴槽内で溺死した状態で発見されたというものです。
この男性は、事故以前から糖尿病と認知症に罹患しておられ、本件事故の少し前にも自宅内で倒れているところを発見され、事故が起きた同じ病院に入院し、その際には入浴は許可されず、清拭のみだったという経緯があり、また、事故が起きる入院の時点で、同じ病院のケースワーカーから店頭の恐れが報告されていたという経緯がありました。
いうまでもなく、糖尿病患者は、低血糖であれ、高血糖であれ、意識消失やふらつきが起きるなどのリスクを抱えていますし、認知症患者も同様です。
それゆえ、本事件の場合、医療側としては、このような転倒や意識消失のリスクの高い患者を単独で入浴させることを許可することが医療者としての注意義務違反にあたるとして、病院側に責任を認めるよう求めましたが、病院側が過失を否定したため、今回の提訴に至ったものです。
超高齢化社会となった日本においては、医療機関であれ、福祉施設であれ、今後、同種の事故が起きる可能性は非常に高くなっています。
私たちは、裁判を通じて、本件のような事故が起きないようにするために、医療者、福祉関係者としてどのような対応をすべきかということについて、可能な限りの問題提起を行い、警鐘を鳴らして行きたいと考えております。
というわけで、この裁判の経過については、今後、節目節目でご報告してまいりたいと思います。
医療事件日記~厚労省が定めた「三原則」を守らない電子カルテの証拠保全Part1
最近行った証拠保全で呆れかえるくらいでたらめな電子カルテに出くわしました。
いろいろと由々しき問題を含んでいると思いますので、取り上げてみたいと思います。
受任事件は整形外科の症例ですが、医師の落ち度は明白であり、かつ結果も非常に重大となった事故に関するものです。
すでに任意開示で一部の記録は入手済みだったのですが、たとえば、手術記事に肝心な経過が記載されていないなど、記載内容に疑義があって、改ざんされた可能性もあることから、証拠保全の申立に踏み切りました。
当日、病院に赴くと、すでに会議室のような場所に医療記録一式が置かれていました。
しかし、電子カルテですので、それではだめだということを告げ、パソコンの画面上でデータの更新履歴や、出力画面で漏れがないかを確認する必要があると話したのですが、事務方の担当者は、その理由がよく理解できず、しばらくは嚙み合わないやりとりが続きました。
そのやりとりの中で、事務方の担当者に、「この病院の電子カルテはどこのベンダーのものか」と尋ねてみたところ、「自前で構築したものだ」という説明がありました。
自前で構築した電子カルテに出くわしたのは2度目のことですが、この時点でちょっと嫌な予感がしたのです。
実は、電子カルテは、同じベンダーのものでも、医療機関の要求や実情に合わせて仕様がアレンジされていることがあり、保全の際にそれに応じた対応が求められ、てこずることもあるのですが、自前の電子カルテとなると、より病院側に都合のよい仕様になっている可能性があることが予想されたからです。
本来、今回の証拠保全の対象となる診療期間は実質的には3日間なので、スムーズに行けば午後4時前には終わると踏んでいたのですが、その後、この嫌な予感が的中する事態となります。
事務方の担当者では埒が明かないため、電子カルテを扱える別の担当者が対応することになりました。
ただ、ノートパソコンでは印刷ができないとのことで(それもおかしなことではあるのですが)、デスクトップパソコンが置いてある事務局スペースに案内されます。
そこで、私たちは、驚愕の事実を知ることとなります。
この病院の電子カルテのシステムでは、個々の記載の更新履歴を画面上に表示することができず、そのため、更新履歴についてはプリントアウトすることもできないというのです。
「そんなばかな」ということで、「何とか表示できないのか」と食い下がりましたが、担当者は、「そういうシステムになっているので、どうしようもありません」と答えるばかりです。
まあ、こう書くとにべもない対応のように聞こえますが、実際には、担当者の方は、とても誠実な方で、尋ねたことにもきちんと答えてくださり、要求したことにも嫌な顔をみせることもなく丁寧に対応してくださっていたのですが、仕様の問題で如何ともし難いということで申し訳なさそうな様子でした。
この「更新履歴が表示されない」「印刷できない」という不具合は、一般の方からするとピンとこないかもしれません。
しかし、私たちが証拠保全を行う目的は、その時点までのデータをすべて入手し、真相解明に役立てることですから、過去の更新履歴が保全できないのでは証拠保全を行う意味がないに等しいのです。
実際、カルテの改ざんは、日常茶飯事とまでは言いませんが、全然珍しいことではなく、そのため、更新される前の記事を検証することは必要不可欠なのです。
そうしたことを防止するため、電子カルテについては、厚労省が定めた「三原則」といわれるものがあります。
このことは前にも書きましたが、再度書きます。
そもそも、カルテは紙媒体による保存が義務付けられていたのですが、その規制が緩和され、電子保存が可能となった際に、厚労省は、「電子保存の三原則」なるものを定めました。
その三原則とは、「真正性」「見読性」「保存性」の3つです。
この内、「真正性」とは、正当な人が記録し確認された情報に関し第三者から見て作成の責任の所在が明確であり、かつ、故意または過失による、虚偽入力、書き換え、消去、及び混同が防止されていることです。
次に、「見読性」とは、電子媒体に保存された内容を、権限保有者からの要求に基づき必要に応じて肉眼で見読可能な状態にできることですが、「診療に用いるのに支障が無いこと」だけでなく、「監査等に差し支えないようにすること」も必要とされています。
また、「保存性」とは、記録された情報が法令等で定められた期間に渡って真正性を保ち、見読可能にできる状態で保存されることです。
こうしたことは厚労省のガイドラインに書かれていることですが、電子データである電子カルテの場合、容易に書き換えができ、痕跡を残さず改ざんできてしまうという代物ですので、「紙カルテと同等のもの」が確保されていなくてはならないとされたわけなのです。
今回の病院の電子カルテが、この内の「見読性」の原則に反することは明らかでした。
ただ、そうはいっても、そのまま帰るわけには行きません。
そこから、現場での悪戦苦闘が始まったのです。
最初にも書いたように、医療事故の真相究明の観点からして、これは非常に由々しき問題であり、そうしたことも含めて、Part2に続きます。
医療事件日記~医療事件と「プレゼン」
先日、ある医療事件において、裁判所でプレゼンテーションなるもの(以下「プレゼン」といいます)を実施して来ました。
訴訟自体は、かなり進行している状況でもあり、裁判官の前で、事件で目を向けるべきポイント、証拠のあるべき評価などについて説明すること自体は「あり」だと思ったりもしたのですが、準備をしながらいろいろ感じたこともありますし、これからこの手法が大きく取り入れられる可能性もありそうですので、検証の意味で、「プレゼン」なるものについて取り上げてみます。
まず、プレゼンとは何ぞやということからですが、要はこれまでの訴訟の経過、双方から提出された主張書面や証拠を踏まえ、如何に自分たちの主張が正しいかをアピールするということで、企業などでは企画営業、コンペなどでわりと普通にあることと思います。
しかし、プレゼンが主張、証拠に基づいて裁判所に心証を形成してもらい、白黒をつけるという訴訟において相応しいものかということになると、現時点ではやはり疑問を感じるところもあります。
何よりも訴訟上の位置付けがはっきりしません。
実際、この点については今回の裁判官も言っていたのですが、プレゼン自体は証拠でもなく主張でもないからです。
もちろん、裁判所に「なるほどそういうことか」とポンと膝を叩いて納得してもらえれば何よりだし、準備をしている時はそんなことをイメージしていました。
ただそうなると、これまで主張や証拠を散々提出してきたけれど、もしかすると、このプレゼンの巧拙によって決着がついてしまうのではないかという感じで不安や疑問が湧いて来たのです。
でもまあ、やると決めた以上、準備をして臨むしかありません。
というわけでプレゼン当日を迎えました。
でどうだったかというと、相変わらずもやっとしたままです。
その事件のプレゼンが成功したかどうかは、裁判所が心証を明らかにしていないので現時点ではよくわかりません。
なのでそれ自体は別に良いのですが、プレゼン終了後にプレゼンの位置づけ、そこで語られるべき内容について、双方の代理人間で齟齬があることがわかったのです。
被告側は争点整理表に毛の生えた程度の、もっとシンプルなものをイメージしていたようです。
こちらは逆で、これまでの訴訟で双方から提出された主張書面や証拠のポイントを丁寧に指摘して自分たちの主張の正しさを示す手続という捉え方でしたので、かなり違ったものとなります。
で、裁判所ですが、双方の捉え方の中間というような言い方をしていました。
つまりプレゼンのイメージは三者間で共有できていなかったわけです。
ともあれ、裁判所がプレゼンを取り入れることを考えている以上、その適否、実施の際の手法といったことも含め、患者側代理人弁護士の間でもしっかりとした議論が必要といえるでしょう。
しかし、考えてみると刑事事件における検察官の論告求刑、弁護人の弁論は、早い話プレゼンですし、民事、行政訴訟などでも弁論を口頭で行うことはあり、それも口頭で伝えることで、裁判所にポイントを理解してもらおうという意味がありますから、早い話プレゼンなのです。
となると、今回の手続は法廷ではなく弁論準備室という部屋でやりましたが、法廷で堂々とプレゼンを行うことは、訴訟における正攻法としてのあるべき姿なのかもしれないと思った次第です。
そうである以上、弁護士ももっと「プレゼン能力」を磨かなくてはならない、そんな時代になりつつあると感じます。
実は、別件の医療訴訟でもプレゼン実施の話が出ていますので、それに向けて技術を磨きつつ、また経過、感想等をご報告させていただきたいと思います。
医療事件日記~コロナ状況下の証拠保全手続
先日、当事務所で引き受けたある医療事件で、証拠保全に行ってきました。
申立自体は今年の春先に行っていた事件なのですが、その後、コロナによる緊急事態宣言の影響で、手続がストップしてしまい、申立から5か月近くが経過して、やっと証拠保全期日が実施されたわけです(通常は申し立てて1~2ヶ月以内には期日が入りますから、やはり異常事態ではあります)。
というわけで、コロナ状況下における証拠保全に関するご報告です。
コロナウイルス感染の広がりによって、最も重大な影響を被っているものの一つが医療機関であることはいうまでもありません。
個々の医療機関で実情に応じた対応を取っておられるわけですが、正直、患者の家族が見舞いに訪れることも制限されているところも多く、抜き打ちで実施する以上、当日、行ってみなければスムーズに進められるかどうかの予測がつかなかったりするわけです。
とはいえ、証拠保全は一発勝負ですので、事前のホームページのチェック、依頼者への確認などの下調べは、平常時よりは慎重に行っておかなければなりません。
それでも無事に証拠保全手続を終えることができるかについて、不安を抱えつつ臨むわけで、行く前から普段とはちょっと違う緊張感がありました。
その不安は出だしでいきなり的中します。
まず建物に入る時点で、ちょっとしたトラブルに見舞われたのです。
コロナ感染対策ということで、まず、病院の入り口で検温を受けるわけですが、なんと裁判官とカメラマンで来てくれた弁護士の体温がいずれも37度を超えていたのです。
2人ともだるさなどまったくないのですが、いきなり足止めです。
結局、普通の体温計を持ってきて正確に測り、最終的には37度を下回っていたことが確認できたので、無事手続には入れたのですが、もし、何度測っても37度以上であれば、証拠保全ができなくなっていたかもしれません(特に裁判官については、手続の主体ですから、完全にアウトだったでしょう)。
おそらく、この日は異常に暑かったので、開始前に外で待機している間に軽い脱水のような状況になっていたのではないかと思いますが、この足止めによって、初っ端からコロナおそるべしとなったわけです。
その後の手続でも、コロナの影響は続きます。
私たちが入れられた部屋には窓も何もなかったのですが、基本的にそこから出ないように、院内を移動しないようにと求められました。
続いて、作業の途中で、CT等の画像の存在が明らかとなり、それは別の場所のコンピューター内に保存されていることが明らかとなったのですが、こうした場合、通常であれば、そのコンピューターの設置してある部屋に行き、その場で操作してもらい、すべてのデータの出力を確認する手順となります。
しかし、別室への移動は避けてもらいたいとの要請があったので、それを受け入れ、医療側を信頼し、とりあえず、データをダビングしてもらうということで納得しましたが、これもコロナの影響ということになります。
もちろん、今回の事件では、画像データはさほど重要ではなかったので折り合ったわけで、もし画像が決め手の事件であれば、コンピューター本体を確認させてもらうよう強く求めたはずですが、とにかくいろんなところで通常とは違う事態に遭遇します。
今回の証拠保全で、最も支障があったのは、最後の場面で、事故が起きた部屋の内部の看視状況を確認しようとしたときのことでした。
医療側からは、不特定多数が出入りする場所なので、室内に入ることは遠慮してもらいたいと求められました。
そのため、部屋の入り口からの撮影となったのですが、奥行きのある部屋なので、内部の状況を正確に確認することはできませんでした。
事故が起きた当時とは室内の状況も変わっているという説明もあったので、それ以上固執することはしませんでしたが、ちょっと残念なことではありました。
しかし、事件のことは別として、医療現場が大変な状況にあることは、今回の手続でもひしひしと実感させられました。
実は、現在準備中の証拠保全案件もあるのですが、コロナの影響はまだまだ長引きそうで、事案の内容や保全の対象物によっては、保全手続に重大な支障が生じて、最悪、保全執行が不能となる可能性がないとも限りませんので、今の時期は、申立のタイミングも含め、慎重に準備、検討しなくてはならないと強く感じた次第です。




















