事務所トピックス

医療事件日記~「局所麻酔薬中毒による死亡事故」解決のご報告PART1

葵法律事務所

横浜地方裁判所に係属しておりました「局所麻酔薬中毒による死亡事故」の医療過誤訴訟が、患者の死亡が被告医師の過失によるものであることが明確に認められ、非常に高水準の和解金を被告側が支払うことで裁判上の和解が成立し、解決の運びとなりましたので、その顛末を含め、ご報告させていただきます。
なお、本件につきましては、箕山榎本総合法律事務所の先生方と共同で取り組んでまいりましたので、最初に信頼してお声がけいただいたことも含め、同事務所の箕山弁護士、榎本弁護士、西田弁護士にも心から感謝申し上げたいと思っております。

初めにお断りいたしますと、私たちが扱った事件についてご報告させていただく趣旨は、何よりも同種の医療事故の発生を防ぐために、それが有用なことと考えるからにほかなりません。
事故の経過を検証する中で、なぜこのような事故が起きたか、また、どうやったら死亡という最悪の結果が避けることができたかについて様々な教訓を得ることができます。
それを広く知ってもらうことが、同種事故の再発防止につながると信じて止みません。
もちろん、医療事故調査・支援センターの活動や、個々の医療者、あるいは病院などでも取り組まれている事故防止に向けた様々な試みがあり、そのことには常々敬意を表したいと考えているところではありますが、個々の医療事故が事件として顕在化し、その中で明らかになった事故の経緯に関する事実や交渉や訴訟などの経過やその結末もまた、それとは違った意味で得るべき教訓があり、事故の再発防止に資するはずだからです。
あと、もう一点、交渉、裁判を通じての医療側代理人の争い方がどのようなものであったかを形に残しておくこともまた、医療事故発生後の交渉や訴訟手続のあり方を含め、不毛な紛争を避ける意味でやはり教訓にすべき点があると考えております。

特に、医療事故訴訟はまだまだ未成熟な領域です。
実際、訴訟手続に関わっていても、まだまだ試行錯誤が続いていると感じますし、中には、真相解明という観点から見て逆行していると感じるような実務の運用も少なからずあります。
多くの場合、裁判所、そして個々の裁判官も非常に努力されていると感じてはいるのですが、実際には、訴訟手続の進め方、主張立証責任の分配の問題も含め、改善されるべき点は非常に多いというのが率直な感想です。
ですので、私たちが経験したことをお伝えし、また改善すべき問題点を指摘することは、医療訴訟のあり方に良い影響を与えるに違いないと確信しているところでもあります。
本件事故では、まさしくそうした裁判所の手続や主張立証責任の分配の問題等について、いろいろと考えさせられる局面もありましたので、そのことも含め、本文中で触れて行きたいと思います。

本文に入る前にもう一点指摘しておきます。
私たちは、あくまで、事故の真相究明、被害者の救済、事故の再発防止を目的に取り組んでおりますので、個々の医療者、医療機関の実名を取り上げて、やり玉に挙げるようなことは原則として行わない方針で臨んでいます(もちろん、事件の内容や事故後の対応によって例外がないわけではありませんが、それでも事件が終了した時点では「ノーサイド」の精神で向き合いたいと考えています)。
医療者の方々も本稿をご覧になることがあるかもしれませんし、それは私たちの希望でもありますが、私たちの取り組みの趣旨を重々ご理解いただきますよう、どうかよろしくお願い申し上げます。
なお、本稿は非常に長くなりますので、今回はPART1ということになります。

本件は平成24年に市中の整形外科クリニックにおいて起きた医療事故です。
若く健康な青年が、肩こりの治療で、地元の整形外科クリニックでトリガーポイント注射を施行してもらったところ、使用した局所麻酔薬が頚動脈内に誤って注入されてしまい、局所麻酔薬が脳の中枢に作用して、施術の直後に意識消失から心停止となり、その後救急要請がなされたものの、低酸素脳症となり、死亡するに至ったという事故です。
トリガーポイント注射とは、神経ブロック注射と似た治療ですが、圧痛点に局所麻酔薬を注射して痛みやしびれなどの症状を軽快させるという治療です。
ただ、使用されるリドカイン(薬品名キシロカイン)等の局所麻酔薬には神経毒性があり、脳への中枢に作用すると、少量でも意識消失、心停止に陥らせる危険があるのですが、そのことは麻酔科、ペインクリニックの領域ではごく基本的な医学的知見なのです。
ほかにもアナフィラキシーショックや迷走神経反射といった症状を引き起こすことが知られていますが、極めた短時間の内に心停止という事態を生じさせることになります。

受任後、本件患者の死亡がどのような機序で生じ、医療者としてどのような注意を払わなくてはならないかを解明するために、私たち代理人は、証拠保全後、ペインクリニックの専門医に相談しました。
局所麻酔薬中毒の具体的な機序は、血管内への誤注入のみで生じるわけではありませんし、そもそも、局所麻酔薬中毒を生じさせたこと自体が過失になるのではないかという問題もありますので、個々の症例に応じた具体的な検証が必要でした。
この点、相談したペインクリニックの専門医の意見は極めて明快なものでした。
まず、機序の点については、トリガーポイント注射で使用した局所麻酔薬が誤って頚動脈内に注入されると、極めて短時間で脳の中枢に作用するため、誤注入の直後に、意識消失となって心停止に至るということで、本件の場合、そのような機序を辿ったことに疑う余地はないとのことでした。
実際、このような機序の点については、本件では、当初、被告側も争う姿勢は見せていたものの、途中でそれを認める姿勢に転じています。
次に、過失の点ですが、大きく分けて2点が問題となります。
まず、誤注入させたこと自体の過失です。
患者にしてみれば、肩こりの治療のつもりで整形外科クリニックに行って心停止に至るなんてことはあり得ないような話であり、誤注入させたこと自体がとんでもないことともいえます。
実際の注射の手技では、バックフローといって、注射管への血液の逆流の有無をチェックすることが必要であり、また注入量を少なめにするなどの対処が生じさせたこと自体に重大な過失があるのではないかと考えました。
ただ、相談したペインクリニックの専門医は、どんなに注意しても、誤注入のリスクを100%排除することはできないとのことで、バックスフローなどの慎重な手技を怠ったことが明らかな場合以外は、それ自体を過失と問うのは難しいかもしれないという話もされておりました。
しかし、いずれにしても、トリガーポイント注射や神経ブロック注射には誤注入による心停止を引き起こすリスクが存する以上、それらの手技を行う医師が、適切な救命処置を執るべきは当然なので、その点の過失は明らかであるし、それさえ適切に実施されていれば当然に救命できたはずであるというのが専門医の見解でした。
そこで、私たちは、適切な救命処置が執られなかったことを医師の注意義務違反(過失)として構成し、平成28年に訴訟提起に踏み切りました。

訴訟が開始されると、クリニック側からは驚くべき主張が出て来ました。
一つは、心停止時にアドレナリン(エピネフリン)を投与しなかったことが救命処置として不適切ではないという主張であり、それ自体、明らかに誤った主張なのですが、この点については後で取り上げます。
もう一つの驚くべき主張というのは、事故発生の時系列に関する事実主張でした。
実は、搬送先の大学病院に被告医師が同行しており、搬送先で、トリガーポイント注射の実施時刻については午前9時20分と説明していましたし、私たちが一度話を聞いた時も、被告医師は、注射の時刻は午前9時半前後と説明していました。
一方、急変後、実際に救急要請(119番通報)がなされたのは午前9時55分のことでした。
そのため、その間に行ったとされる救命処置が不適切なものであることや救急要請の遅れを指摘したのです。
ところが、被告は、訴訟の中で、急変した時刻が午前9時55分頃であり、急変の時点で直ちに救急要請をしたという主張を展開してきたのです(注射直後の急変という前提があるので、注射の時刻もそれに近接した時刻という主張になります)。
しかし、被告側主張は、事実経過としても不自然であり、被告医師自身の事故直後の説明とも矛盾しているわけですから、どう見ても無理がありました。
ただ、問題なのは、このような荒唐無稽ともいえるような被告側の時系列主張について、裁判所がそれを明確に排斥しないまま、訴訟が5年目にまで突入してしまったことでした(もちろん、私たちはその間に様々な主張立証活動を重ねています)。
期日が重ねられる中で、いったんは、当時の裁判体の部長が、被告側の時系列に関する主張には無理があるとして、時系列について心証を得たような発言をしましたが、その裁判官が転勤で交代すると、まるでその心証開示がなかったかのように白紙に戻り、以後も被告側はこの時系列に関する荒唐無稽な主張をひっこめることはありませんでした。

結論的には、裁判所が原告勝訴の心証を開示して被告側の不合理な時系列主張は排斥されて和解にこぎつけることができましたが、この訴訟には色々な意味で得るべき教訓があります。
いくつかのポイントに分けてそのことを取り上げてみたいと思いますが、長くなりましたので、PART2へと続きます。

2022年02月17日 > トピックス, 医療事件日記

医療事件日記~病院内での入浴中の溺死事故に関する提訴のご報告

葵法律事務所

このたび、神奈川県内のある総合病院における入浴中の溺死事故について提訴の運びとなりましたので、ご報告させていただきます。

同事件は、かなり前の事故ですが、まったく別事情で提訴に時間がかかり、やっと提訴となりました。
事件の概略ですが、70台の高齢の男性が地元の総合病院に入院となって数日後に、単独で入浴したところ、浴槽内で溺死した状態で発見されたというものです。
この男性は、事故以前から糖尿病と認知症に罹患しておられ、本件事故の少し前にも自宅内で倒れているところを発見され、事故が起きた同じ病院に入院し、その際には入浴は許可されず、清拭のみだったという経緯があり、また、事故が起きる入院の時点で、同じ病院のケースワーカーから店頭の恐れが報告されていたという経緯がありました。
いうまでもなく、糖尿病患者は、低血糖であれ、高血糖であれ、意識消失やふらつきが起きるなどのリスクを抱えていますし、認知症患者も同様です。
それゆえ、本事件の場合、医療側としては、このような転倒や意識消失のリスクの高い患者を単独で入浴させることを許可することが医療者としての注意義務違反にあたるとして、病院側に責任を認めるよう求めましたが、病院側が過失を否定したため、今回の提訴に至ったものです。

超高齢化社会となった日本においては、医療機関であれ、福祉施設であれ、今後、同種の事故が起きる可能性は非常に高くなっています。
私たちは、裁判を通じて、本件のような事故が起きないようにするために、医療者、福祉関係者としてどのような対応をすべきかということについて、可能な限りの問題提起を行い、警鐘を鳴らして行きたいと考えております。

というわけで、この裁判の経過については、今後、節目節目でご報告してまいりたいと思います。

2021年10月30日 > トピックス, 医療事件日記

日々雑感~明日の総選挙の隠れテーマは「大増税」

弁護士 折本 和司

明日は、いよいよ総選挙の投票日です。

今回の総選挙は、本当は、長く続いた安倍政権、菅政権で取られて来た政策や、自民党、公明党などが何を目指して来たかに対する審判でなくてはならないと思います。

しかし、現実には、菅政権があまりにお粗末な対応を繰り返したため、これでは選挙は戦えないとして、直前になって党の顔が挿げ替えられ、その結果、本来、問われるべき安倍政権、菅政権下で何が起きて来たかが曖昧にされ、岸田政権が何をやろうとしているのかが良く見えないうちに、いきなり総選挙の日程がやって来てしまいました。

 

もちろん、トップが代わったわけですから、これまでとは違う政策が打ち出される可能性がないとまではいえませんが、もし、自公政権が続くとすると、今の権力体制で美味しい思いをした人たちが「利権に群がり続ける」という、固い岩盤のような構造が容易に揺らぐことは考えにくいところです。

そして、いったん、その体制が出来上がってしまえば、その体制は最大4年間続くことになります。

如何に選挙が民主的に行われても、ヒットラーのような独裁者は誕生しますし、日本もそれに近い集団的な独裁体制が構築されつつあると感じる人は、私だけではないと思いますが、今のいびつな権力構造が今後さらに4年も続けば、私たちが戦後営々と築いてきた公正なシステムまでもがことごとく破壊されてしまうのではないかという、強い危惧を感じます。

 

バブル崩壊後30年以上が経ちましたが、日本人の平均年収はほとんど増えておらず、消費者物価はデフレといいながら、その当時よりは高い水準にあります。

しかも、今は、国力低下を反映するような円安が進行しています。

日本人の実質的な所得は低下の一途をたどっているのです。

にもかかわらず、事項政権下では、所得の垂直的な再分配はまったく実現されず、それに逆行する政策が遂行されて、貧富の差は拡大するばかりです。

多くの労働者や地道に頑張っておられる中小企業の方々にとって、これ以上今の自公政権の体勢が続くことは、致命的になりかねません。

 

今回の選挙の報道や自公政権の人たちの発言を聞いていて、いろいろ違和感を覚えるのですが、中でも、彼らが、増税についてほとんど語らないことは、いかに選挙で増税のことを言えば不利な結果になるとしても無責任の極みです。

これまで、散々、財政の健全化のために消費税を上げる必要性があると言い続け、今回のコロナ対応でも、GOTO等、様々なバラマキ政策を実現し、おそらく天文学的な金を払って海外からワクチンを買い漁っています。

しかも、景気はコロナで落ち込み、税収も不安定な状況ですから、この選挙が終われば、遠からず、大増税の話が出て来るのはほぼ確実と思います。

もちろん、。増税の話については、野党側もしていませんし、そこを批判する人はいるでしょうが、国庫を預かり、これまで政策を遂行してきた与党こそが一義的な説明責任を負っているのです。

 

選挙が終わり、今の体制が維持されれば、コロナの状況にもよりますが、増税の話が間違いなく出て来るでしょう。

ただでさえ、多くの一般国民の生活は疲弊し、石油など、海外からの輸入品が値上がりする中で、逆進性のある消費税が安易に増税され、様々な税の控除の仕組みが撤廃されるなどすれば、貧富の差がさらに拡大することは必至です。

 

それを語らず、曖昧な希望を語るだけで、今度の選挙を乗り切ろうとする自公政権に対し、私たちは、想像力、洞察力を持って、投票に臨む必要があると思います。

同じ権力体制が長くこと自体が、権力の腐敗を招くということもありますので、未来を少しでも良い方向に変えたいのであれば、明日、必ず投票に行きましょう。

2021年10月30日 > トピックス, 日々雑感

事件日記~突然の成年後見人選任の申立

弁護士 折本 和司

20年以上も交流のあった依頼者の女性が癌の余命宣告を受けられ、相談したいことがあるという連絡をいただいたのは今年5月のことでした。

実はこの方には、障害を抱え、後見を要する状況にあるお子さんがおられ、また多少込み入った事情もありました。

亡くなられた方は、お子さんのことを最後まで気にかけておられましたので、6月にはご自宅まで伺い、いくつか助言を差し上げるなどしたのですが、彼女の訃報が届いたのは、それからわずか10日後のことでした。

お会いした時は、気丈に明るく振舞っておられましたので、まさかこんなに早くお亡くなりになられるとはと驚きましたが、死後への備えのために、きっと最後の力を振り絞られたのだと思います。

 

その突然の訃報から数日後、私は、後見を要するお子さんのために10人近い福祉関係者が集まる地元の会合に出席しました。

お子さんといっても、すでに成人されているのですが、おひとりで暮らすのは到底無理な状況でした。

これまではずっとお母さんと二人暮らしで、お母さんが日ごろの面倒を見ておられましたが、とにかくご本人が安心して暮らせる環境を構築してあげる必要があるということで、すでに仮入所された施設の担当者も含め、様々な関係者が集っておられたのですが、福祉関係者の方々の真摯なやりとりをそばで見ていて非常な感銘を受けました。

ご本人が安心して暮らせるよう、寄り添って生活を支えてあげるということは、これからずっと継続して行かなければならないわけでそれ自体本当に大変なことと思いますが、日々の細かいところまでご本人にとって負担にならない方法を考えながら、役割分担を決めて行く福祉関係者の方々の努力には本当に頭が下がります。

 

もちろん、弁護士には弁護士の役割があります。

やはり、今回の場合は、突然に近い亡くなられ方だったので、重要な書類一つとっても、どこに何があるかすらわからない状況でしたが、当面の目標は、とにかく、早く成年後見人の選任申立を行い、契約や金銭の支払いなど、法律的な手続が進められるようにして行くことなので、緊急性の低いものや、現時点では処理できそうにないものはすべて後回しにして、申立の準備を急ぎました。

厄介だったのは、「要後見状態」であることの証明で医師の診断意見書が必要となるのですが、今回のご本人の場合、かなり以前にそれに類する診断は受けているものの、以後、特に主治医にあたるような医師がいないため、イチから診断意見書を書いて下さる医師を確保しなければいけないという事情もありました。

そのため、本人に関わっていた複数の医療機関にあたり、事情を話してなんとか診断意見書を書いてもらい、その間に戸籍謄本などを揃えるなどいろいろな手はずを整えて成年後見人選任申立の手続を行うことができました。

裁判所も事情を理解してくださり、ほどなく後見人選任に至りましたので、これから順次法的手続に取り掛かることになります。

 

考えてみると、私は、ご本人とも20年以上の面識がありますので、お母さんに頼まれ、ご本人の人生に関わって行くということについては、すごく不思議な縁を感じています。

何よりも、ご本人が安心して暮らして行けるように福祉の方をバックアップしていくことが亡くなられたお母さんに対する何よりの供養であると肝に銘じて、これから成年後見人の職務を遂行して行きたいと決意を新たにしています。

 

2021年09月05日 > トピックス, 事件日記

日々雑感~名ばかり緊急事態宣言を繰り返す愚とデルタ株のまん延がもたらすもの

弁護士 折本 和司

またもや緊急事態宣言が発出(すでに出ていた東京は延長)されました。

そんな状況下でも、利権目当てのオリンピックは開催にこぎつけ、コロナの感染者数が急増する一方で浮世離れしたお祭り騒ぎが繰り広げられるという、例えていえば、戦争で敵が城に攻め込んできているのに、城内で宴を開いているような矛盾した状況が起きています。

今回の緊急事態宣言についても、政治家連中は、毎度おなじみの「最後の」というフレーズをくっつけていますが、もはやギャグでしかなく、小池都知事の「最後のステイホーム」という発言に対しては、ネット上で、「続・最後のステイホーム」「新・最後のステイホーム」「最後のステイホーム・ファイナル」「帰って来た最後のステイホーム」「最後のステイホーム・レオ」など、その発言を揶揄する大喜利が繰り広げられていました。

しかし、緊急事態宣言も、それとどこが違うのかもよくわからないまん延防止~もコロナ対策としてはあまりに姑息的で無意味であることはもはや明白なので、安倍政権、そして今の菅政権のコロナ対策がいかに役に立たない、税金の無駄遣いであるか、そして、本気でコロナ感染を終息させるために何をすべきかについて書いておこうと思います。

 

まず、今の、人が集まるような施設、店舗に時短営業や要請し、飲食店には酒類提供の自粛を求めておいて、その見返りで給付金を支給するという内容の緊急事態宣言は、コロナ感染の終息という目的に対しては何の役にも立たないし、税金の無駄遣いです。

確かに、緊急事態宣言が施行され、1か月もするといったんはコロナ感染者は減少するということがこれまでもありましたから、時短や酒類の提供の制限に一定の効果があるという見方もあると思います。

しかし、コロナの難しいところは、無症状感染者が感染を広めてしまうことで、中途半端な対策では、感染者の徹底した把握も、人の動きを止めることもできず、結局は、無自覚の無症状感染者がいる限り、あちこちでウイルスをばら撒き、感染が再拡大することが繰り返されることになるのです。

特に、今回の感染者数の急増は、主としてデルタ株によるものなので、これまでとは明らかにフェーズが異なります。

デルタ株の感染力は、これまでのコロナウイルスに比べて感染力がけた違いといわれているので(ある記事によると、従来のウイルスはせいぜい一人が2・5人程度の感染力であったのに対し、デルタ株は、一人が7~8人を感染させるほど強い感染力がある、つまりそれだけウイルス量が多いというのことのようです)、中途半端な対策ではおよそ効果が見込めません(ましてやオリンピックというお祭りを並行して実施しているわけですからなおさらです)。

デルタ株の脅威の凄まじさはデータの比較によっても明らかです。

今回の感染者数の急増は、東京が発火点となっています。

その後、東京周辺に広がっていますが、春に急増した大阪は東京ほど急増していません。

この違いはデルタ株の占める割合の差によるものといわれています。

東京の場合、感染者数の90%がデルタ株であるのに対し、大阪は60%にとどまっているからです。

もちろん、大阪でも今後デルタ株の比率が高くなると予想されますが、少なくとも、現時点までの感染者数の推移を見る限り、東京でデルタ株が先行して広がったことが、東京圏における感染者数の爆発的増大を招いていることは明らかです(そしてそれが地方に広がっているわけで、今回の感染拡大の発火点が「東京のデルタ株」であることは明らかでしょう)。

 

菅首相は、感染者数が急増していることに対して、「人流は抑えられている」と的外れな返しをしていましたが(「ではなぜ増えているのか」と追及しないマスコミもレベルが低いとしか言いようがないですが)、そういえる根拠が不明なこともさることながら、そもそも人流抑制は、コロナ感染を抑えるための手段の一つにすぎず、およそ答えになっていません。

十分に予期できたはずの、「感染力が強いデルタ株がまん延する可能性」も踏まえ、先手先手で対策を立てるのが為政者の仕事であり、利権オリンピックの実施や選挙のことで頭がいっぱいで、思考停止に陥っているというほかありません。

 

去年からずっと申し上げていることですが、この状況で、感染を抑え込むためには、検査の徹底か、一定期間の完全なロックダウンの実施しかありません(もちろん、この二つの政策は厳密には二者択一ではなく、医療体制の拡充や入国後の移動の制限、きちんとした補償などと組み合わせてセットで行われる必要があります)。

ロックダウンの実施について、政府は、わが国にはなじまないなどと意味不明なことを言っていますし、憲法を変えなければできないと、この機に乗じて憲法改正につなげようとするような論調もありますが、誤った考えです。

人権が公共の福祉の制限を受けることを明記した現憲法下でロックダウンの実施は十分に可能であり、にもかかわらず、ロックダウンが実施されず、名ばかりの緊急事態宣言で自粛を促すというお茶を濁すような対策しか実施されないのは、目先の経済を停止させたくないという思惑であるとか、ロックダウンが、憲法29条により、国民に対する経済的な補償を行うことを国が義務付けられるのを怖れてのことなのかもしれませんが、いずれにしても本末転倒です。

実際、緊急事態宣言でも、極めていびつな形で、一部の事業者に金がばら撒かれ続けており、にもかかわらず、その効果は限られていて、期間が終了してしばらく経つと感染が増大するということが繰り返され、現在の感染爆発につながっているわけですから、これまでにばら撒いた金は、結局のところどぶに捨てたに等しいと言っても過言ではありません。

しかも、だらだらと中途半端な政策が続くだけで、体力の乏しい事業者はバタバタと潰れ、生活の基盤を失い続けています(私の地元である横浜の関内あたりでも、長く続いてそれなりに繁盛していたような店すらも次々と閉店しており、それを目にするだけで胸が締め付けられるような気持になります)。

 

もちろん、海外でロックダウンを実施した国でも、その後感染者数が増えているという反論はあるでしょう。

しかし、まずは、今の感染状況をいったん沈静化する必要があります(後述する、陽性率からすると、東京圏では数十万人以上の検査未了の感染者がいてもおかしくはありませんし、その人たちが周囲にデルタ株をまき散らしていると考えれば、いかに危険な状況かは容易に想像できるはずです)。

その後は、検査の徹底と、医療体制の拡充、入国後の移動の制限などをセットで行えばよいのです。

なぜならば、今の感染状況を放置すると、感染者数はさらに増え続け、日本全国にデルタ株がまん延することが強く危惧されるからです。

実は、ここのところの陽性率は以前とは大きく異なり、跳ね上がっています。

東京では20%を超え、川崎ではなんと40%を超えています。

このことについて、先日、コロナ対応の最前線で懸命に闘っておられる医師から伺いましたが、この検査数と陽性率の関係については、WHOによれば、5%を超えるかどうかというのが感染をコントロールできているか否かの目安なのだそうです。

つまり、5%を超えなければ、感染増大が危惧されるという状況ではないけれど、5%を超えるということは、市中感染が進んでいることを示し、実際には、それよりも多くの感染者が存在していると見られるのだそうです。

その陽性率が5%を超えるどころか、20%、さらには40%となると、もはや、潜在的な感染者がうじゃうじゃいて、しかもそれが感染力の強いデルタ株ということになると、感染者数のさらなる爆発的増大のリスクはらに高まります(また、医師がおっしゃるには、この時期は、コロナと区別がつきにくい熱中症の患者も多いので、熱中症の患者が紛れ込んでいる中で20%を超える陽性率となっている状況は尋常ではないと感じているそうでした)。

 

菅政権は、コロナのリスクを矮小化しようと必死ですし、高齢者の感染者割合が低いことや死者数が少ないことを理由に、ワクチンの効果が出ているとして、ワクチンに神頼みのようにすがっていますが、起き得るリスクを幅広く想定して、最悪に備えるのが為政者の役目であり、こんな人たちにかじ取りを任せていいのかと強い憤りを感じます。

感染者数が増えても、ただちに重症者数が増えるわけではなく、重症者数が増えても、ただちに死者数が増えるわけではありませんが、要はタイムラグがあるだけで、このまま行けば、いずれ重症者数、死者数が跳ね上がって来ることは必至です。

ついでにいいますと、菅首相は、中等度は自宅でととんでもないことを言い放ち、その後、批判を浴びて、曖昧に撤回しましたが、とんでもない発言だと感じたのは、私だけではないでしょう。

先日お話を伺った医師からも「一定の症状が出ているコロナ患者に対しては、重症化しないように抗ウイルス効果が見込めるレムデシビルの投与等の治療が必要であり、そのためには入院が必須なのに、みすみす重症化させてしまうことになる。政府はコロナに対する医療のことを何もわかっていない」というお話があり、菅首相の発言には憤慨されていましたが、まさに棄民政策を採ると言い放ったに等しく、この人物は国民の命を守るために働く気がさらさらないのだということを改めて強く感じました(やるべきは、断じて患者の切り捨てなんかではなく、検査、医療体制の拡充であり、自宅以外で必要な医療を受けられるような体制作りのはずです)。

 

とにかく、中途半端な政策をだらだら続けても、コロナ感染の爆発的な拡大は防げません。

与野党の垣根を越えて、国民のために何をすべきかを真剣に考えようという人たちが力を合わせて、医療者など専門家の言葉に真摯に耳を傾けて、一刻も早く、コロナにきちんと立ち向かう政策を実施してもらいたいと、心から強く強く望んでいます。

 

2021年08月09日 > トピックス, 日々雑感
Pages: 1 2 ... 7 8 9 10 11 ... 33 34
  • ٌm@{VAK
  • ٌm@ܖ{ai
  • ٌm@m
  • ٌm@|{D


 | 事務所紹介 | 弁護士紹介 | 取扱事件領域 | 費用のご案内 | トピックス 
(c)2016 葵法律事務所 All Rights Reserved.

ページトップへ戻る